押井守監督「ジブリにボロクソ言えるのは私だけじゃないかと思ったんです」
「うる星やつら」シリーズや、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」で知られる押井守監督(70)が、「誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版」(講談社/東京ニュース通信社)を出版した。忖度一切ナシ、長年にわたって親交のある押井監督だからこそわかるジブリの抱える矛盾と映画観を語った。
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カンヌ映画祭で「竜とそばかすの姫」が上映されるなど、日本のアニメが世界的に再注目されている。
「この前、細田君(細田守監督)の『時をかける少女』は頭の15分は見たよ。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『シン・エヴァンゲリオン』の話は聞いているけど、新作を見てないな。(スタジオジブリ代表・総合プロデューサーの)鈴木敏夫とも語ったことがあるんだけど、映画が当たるってどういうことなのかは既にわかってるし、すでに一生分の映画見ているから、頭でも途中でも3分見ればどんな作品か、監督が作った動機がわかる。だから年数が経って淘汰されてからで十分。新作を見るのは効率が悪い」
映画が当たるのがわかるとは?
「アニメファンのガチ勢なんて10万人もいないでしょう。鈴木敏夫はリアリストで100万人までは作品の力、それ以上は社会現象だって言っていた。私の作品でも実証済みだけど、お客の求めるものを作っても、自分のやりたいことをやっても動員数にさほど変わりはない。その先を超えるのが情報、配給の力というわけ」
社会現象とは?
「はやっているから参加したいっていうその他大勢がいるということ。年に1、2作品そういうブームがあって『カメラを止めるな』もそのひとつ。上田監督はいつも通り仲間を集めて作っているだけで『なんでヒットしたのかわからないけど、次の仕事が来るからうれしい』って言ってた。ある意味ジブリもそう。でも社会現象じゃなくて、全て作品のチカラだと信じているのが宮崎駿なんだよね」
なぜジブリを語ろうと?
「宮さんとは映画観やどんなものを作りたいとかウンザリするほど語り合っているんだけど、言ってることと実際作った作品に矛盾がある。それに本人も気がついていないんだよね。ところがジブリは1つのジャンルになり、誰も指摘しない。ボロクソ言えるのは私だけじゃないかと思ったんです。私には珍しくジブリ全作品を見て、公平にしゃべった。映画監督というのは忖度の対象と度合いで大きく変わる、宮さんの忖度がどこに向けられているか、身近にいるからよくわかるから、事細かなところまで論じています」
増補版では鈴木氏との往復書簡や対談なども加えたそう。
「鈴木敏夫とは手紙のやりとりすらまともにしたことがないから中身的には面白かったかな。誰かの作品を語るってことは自分を語ることだからね、手間暇かけています。宮崎駿についてこれ以上細部について述べた本は出ないと思うので、一度手に取って、ジブリ映画をもう一度見てもらいたいですね」
(取材・文=岩渕景子/日刊ゲンダイ)