二兎社「鴎外の怪談」現代に通じる“知識人”鷗外の苦悩と葛藤
「この次から気をつけるというんじゃダメか?」
山県邸に行って幸徳らの刑の執行を止めようとする鷗外に向かって賀古が言う。
要するに、今回の事件はもう終わったことにして、これ以上この国がひどくならないように「次」こそは正しく物言おうと鷗外に日和見を促す言葉だ。
100年後の現在、自衛隊の海外派遣、原発、改憲、モリカケ疑惑など戦後の日本の根幹に関わる問題に対して、巨大与党の前になすすべなく手をこまねいている知識人や国民。それは大逆事件に対処した鷗外が結局は抗議の直接行動が出来ずに内心で悩む姿と同じではないか。
鷗外の不安な心象に響くのは愛し合いながらも別れさせられた恋人・エリスの悲痛な叫び。鷗外は海外の怪談を紹介するほか、自分でも多くの怪談を執筆したが、実は鷗外の二面性そのものが「怪談」だったのではないか。心に生じる不協和音に懊悩する鷗外を松尾が見事に演じ切った。
ほかに、大逆事件に連座した大石誠之助に関わりのある女中役で木下愛華。
12月5日まで池袋、東京芸術劇場・シアターウエスト。その後、全国を巡演。
★★★★