二兎社「鴎外の怪談」現代に通じる“知識人”鷗外の苦悩と葛藤
永井愛の作・演出で2014年に初演した作品をキャストを一新しての再演。1910年、森鷗外(松尾貴史)にとって生涯大きな悔いを残す事件が起こる。管野スガ、幸徳秋水らが天皇暗殺を企てたという「大逆事件」だ。
この冤罪事件を利用し社会主義者や無政府主義者を根絶しようと画策する元老・山県有朋は秘密会議を開き、幸徳らを極刑にするよう、裁判の結論を決めていた。鷗外もその秘密会談に招かれていたのだ。
近代的知識人として思想の自由を擁護しながら、陸軍軍医総監・森林太郎としては権力の側に立つ鷗外。その二面性の相克に鷗外は悩む。そして思いあまった末に山県に諫言しようと意を決するのだが……。
鷗外の内面の葛藤を軸にしながら、代々、藩の典医を務める名門・森家の行く末をめぐって主導権争いをする嫁と姑など、鷗外の内外にある対立関係を配置し、舞台に厚みを持たせた。
森家の内情を小説に書こうとする才媛の嫁・しげ(瀬戸さおり)と古めかしい武家の姑・峰(木野花)、厭世感に取りつかれ、政治からも世の中からも自由に生きようとする永井荷風(味方良介)と、管野スガらの弁護を引き受け、現実社会を変えていこうとするスバル編集者・平出修(渕野右登)、そして鷗外を権力の中枢に引き上げた親友・賀古鶴所(池田成志)と鷗外……。物語にはいくつかの対立軸が生まれるが、その中でも鷗外の二律背反は深く沈鬱だ。