歩行の定義から逸脱「大股歩きは体にいい」は間違いだった
江戸時代の人はどんなに遠くても徒歩でお伊勢参りをするほど健脚だった。着物だと大股で歩くと裾がはだけてしまうため、当然小股で歩いていたと田中氏は説明する。
大股で歩くと、足が前に出過ぎて、膝が曲がってしまうため、「大腿四頭筋」という筋肉に負担がかかる。その反動で、足と太ももは後ろにいかなくなり、本来使用しなければならない「大臀筋」という筋肉を、使わなくなってしまうのだという。
「そもそも、人間の歩行とは、ある目的を達成するために体の中心、いわゆる重心を目的物に近づける行為のことです。それなのに、足や腕を無駄に大きく振り出すと、重心は後方に下がってしまう。これでは、歩行の定義から逸脱してしまうのです」
田中氏によると、ここ30年、つまり平成の間に、大臀筋が萎縮してジーパンの平均的なヒップサイズが小さくなり、ふくらはぎの腓腹筋が肥大化してブーツが太くなった。そして、一番大きな変化は、歩くだけで疲れてしまう人が急増したことだという。平成の30年間は、歩く力が失われていった30年だったのだ。