若い頃から怒りっぽい人、威張る人ほど認知症の進行が速い
私はどういう局面においても、人に対して感情に任せて怒ったり、威張ったりすることがないようにと心掛けている。もともと温和で、偉そうな言動をしない人間だったわけではない。若いころに、そうした態度は人間関係を損ない、自分にさまざまなストレスを生じさせることに気づいたのだ。怒る、威張るという行為は、ほとんどの場合、相手の論理的な思考をシャットアウトすることにつながる。そうしたスタンスは直面する問題の解決を図ったり生産的なコミュニケーションを行ったりするためには、百害あって一利なしだ。だから、人に対してはできるだけ穏やかに、論理的なコミュニケーションで接するように心掛けている。
ところが、世の中には湧き上がる感情に任せて怒る人、威張る人が驚くほど多い。国会中継などを見ていると、論理的整合性に基づいた生産的な議論はほとんどなく、感情的な怒りのぶつけ合いや権力者の不遜な態度ばかりが目について、呆れてしまう。
そんな私が、長年、老年精神医学に携わってきて、認知症の進行について確信していることがある。それは、いったん認知症になると、若いころから怒りっぽい人、威張る人は認知症の進行が速いということである。当然のことだが、怒りっぽい人、威張る人は、人がだんだんと寄り付かなくなる。他人が寄り付かなくなれば、コミュニケーションの機会は減る。他人の話を聞いて、自分の意見を言う機会も減る。つまり、他人の話=情報の入力、自分の発言=情報の出力といった脳を悩ます機会が減るわけだ。