堀田秀吾
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堀田秀吾明治大学教授、言語学者

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

○○するなと言われると…強く禁止すればするほど関心の度合いが高くなる

公開日: 更新日:

 民話「鶴の恩返し」のストーリーを知らない──という人はいないと思います。助けた鶴が、人間の姿となって恩返しをしに来る。その中で、人間の姿で現れた鶴が、「布を織っている間は決して部屋をのぞかないでください」と話す一幕があります。

 ところが、気になってしまった老夫婦は部屋をのぞいてしまう……。あれだけ「のぞいてはいけない」とクギを刺されたにもかかわらず、どうして老夫婦はのぞいてしまったのでしょうか?

 人間は不思議な生き物で、「〇〇をするな」とクギを刺されると、かえって気になって「〇〇をしたい」と思ってしまうところがあります。このように禁止されるほどやってみたくなる心理現象を「カリギュラ効果」と言います。

 心理学者のアロンソンとカールスミスは、幼稚園児22人を対象に、「おもちゃのパラダイム」という実験(1963年)を行っています。

 まず子どもたちに5つのおもちゃで遊んでもらい、その後それぞれを好きな順に並べてもらったそうです。次に、子どもたちが2番目に好きと選んだおもちゃに対して、「自分が部屋の外で用事をしている間(10分間)は、そのおもちゃで遊んではいけない」と伝えました。

 その際、「もしそのおもちゃで遊んだら罰を与える。絶対に遊んではいけない!」と厳しく伝えたケースと、「このおもちゃで遊んだら困ってしまうからやめてね」と穏やかに伝えたケース、2つのパターンを試したといいます。先の鶴の恩返しでいえば、「絶対に開けるな」と念を押して厳しくクギを刺すのは前者のパターンと言えます。

 退席後、その様子を観察すると、子どもたちは双方のケースで言いつけを守り、決して2番目に好きと選んだおもちゃで遊びませんでした。きちんと守るあたりが、子どもの善良さでしょうか。ところが、この実験の本質はここからなのです。

 部屋に戻ってきた後、子どもたちに「もう一度好きな順に並べてください」と伝えると、厳しく伝えたケースは、そのおもちゃのランキングが2位のままか、1位に浮上するケースが目立ったといいます。対して穏やかに伝えたケースは、不思議なことに2位から3位にランクダウンするケースが目立ったそうです。

 つまり、罰の脅威をチラつかせればチラつかせるほど結果的に関心度が高まり、気になってしまうことが示唆されたのです。

 一方、罰の脅威が小さいと「遊びたいけど、遊べない」という不協和の状態をクリアにする障害が低くなるため、おもちゃそのものへの関心が下がり、評価まで低くなる可能性があることがわかったのです。確かに、鶴が「別にのぞいてもいいですけど、多分、面白くないですよ」などと言おうものなら老夫婦の興味も半減したでしょう。

 この実験は、罰やルールを厳しくすれば望んだ行動や考えに軌道修正できる──とは限らないことも教えてくれます。人間の興味は、時に暴走します。人間には葛藤をはじめとした不協和な感情があることを忘れないように。


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