前立腺がんと闘う芸人の大空遊平さん 昨年は線路に転落して右腕を失う

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大空遊平さん(漫談師/72歳)=前立腺がん

 ご覧の通り、私は右腕がありません。これは昨年11月に酔っぱらってホームから線路に転落して電車に接触したらしく、気付いたら病院にいて片腕がなかったのです。こういうのは「切断」ではなく「轢断」と言うんですって。車輪にひかれたことによる死亡は「轢死」と言うそうですよ。

 それはさておき、病気のお話ですよね。3年前から「前立腺がん」を患っていまして、先生いわく「最悪の一歩手前」でした。

 2020年の8月下旬、寝ている間に尿が漏れてしまったので、近所の泌尿器科に行きました。5~6年前からトイレが近かったので予想はしていましたが、前立腺が3倍に肥大しているのがわかりました。採尿後にエコー検査を受けたところ、排出されたのは3割で7割の尿がたまっていると言われました。

 取り急ぎ、尿道カテーテルを入れられて尿を出した後、「うちでは対処できない」とのことで、すぐに紹介された大学病院に行きました。

 さっそく採血すると、PSA(前立腺の腫瘍マーカー)の数値が、基準値0~4ng/ミリリットルのところ、1380ng/ミリリットルでした。先生に「間違いなくがんです」と言われましたもんね。その後にMRIだのCTだの、造影剤だなんだかんだといろいろ検査をされました。

 その結果、「臓器はきれいだけれど、肺の奥の骨に転移がある前立腺がん」と告げられました。漠然と「どうしようかな」とは思いましたが、独身ですし、深刻にはなりませんでした。

 余談ですけど、最近の採尿は紙コップを使わないんですね。普通に洋式トイレで用を済ませただけで尿量などが測定されて、レシートみたいな紙で出てきたんです。文明の進歩に感動しました。 この後、2泊3日の入院で、生検のために12本の組織採取が行われました。結果、12本中12本からがんが見つかり、そのうち7本の数値が悪性度の高いものだと診断されました。「手術になるかな」と思いましたが、治療は注射と錠剤の服用でした。錠剤の抗がん剤と、貧血を補う鉄分を毎日飲み、月に1回は骨の転移を抑制する腕への注射と、お腹には女性ホルモンの注射です。

 すると、1380あったPSA値が翌月には800になり、さらに翌月には400、次は200とみるみる下がっていきました。こんなに下がるならどこまで下がるか試してみようと思って、1カ月禁酒をしてみたら数値が2桁になりました。さらに1カ月禁酒したら1桁になり、翌月0.1まで下がったんです。でも、その後は徐々に上がってきました。すると先生が薬を替えて再び減少に転じ、今は0.001ぐらいになっています。

 抗がん剤の副作用は特になかったです。先生にも「大丈夫なんですか?けっこう強力な治療をしているんですよ」と言われましたけど。ただ、女性ホルモンの注射のせいかこの1年で女性の更年期のような火照りを感じるようになり、左胸が大きくなってきたんですよ。だから、前立腺がんより今は乳がんが心配です(笑)。

 現在は半年に1回のホルモン注射と、毎日の抗がん剤とオメガ脂肪酸の錠剤だけ。膀胱壁の厚みも正常になり、骨の腫瘍は、新しい転移もあるけれど、大方は縮小傾向です。月1回血液検査をしながらがんの発生をコントロールしている感じです。

■ないはずの右腕が痛む「幻肢痛」も

 がんになってから「やりたいことをやっていこう」と思うようになりまして、一昨年、初めて富士山に登りました。がんの治療で骨が弱くなっているので、先生に「転ばないで」と言われながらもなんとか登頂したんです。ほかにも自転車で島一周したり、11月には東松山市の「スリーデーマーチ」という3日間歩くウオーキングイベントにも参加しました。

 その1~2週間後です、線路に落ちたのは……。酒宴の帰りでした。酔っぱらっていたというより、眠くて仕方がなかったのを覚えています。遠くの方で「人がいるぞ!」という声を聞いたような気もしますが、ほとんど覚えていません。目覚めたら目の前に姪っ子夫婦がいて、すでに腕はなく、肋骨にヒビが入ってると聞かされました。無意識の中で、宮城の実家の電話番号を口にしたんでしょうね。

 入院の途中で抗がん剤が切れて飲めなかったのに、最近久しぶりに測ったPSAに大きな変化はなかったんです。でもこれ以上放置したら上がるので、また抗がん剤を飲んでいます。

 事故から半年、助けられた命なのでしっかり生きなければと思っています。ないはずの腕が痛む「幻肢痛」はありますけど、生活に必要なことはリハビリで教わりましたし、片腕を失っても義手があればできることは多いです。病気にしてもケガにしても、今は自分の体であれこれ実験して楽しんでいます。

 最後にまた余談ですが、電車を止めてしまったことへの賠償金の請求書はしっかり来ました。終電だったので乗客のタクシー代など、意外と細かく請求されます。これがもしラッシュ時の利用者数だったらと思ったらゾッとしました(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽大空遊平(おおぞら・ゆうへい) 1951年、宮城県出身。大学中退後、落語家に入門するも8カ月で廃業。大空ヒットに入門し、82年に漫才コンビ「大空遊平・大海かほり」を結成した。2015年にコンビ解散後、ピン芸人として活動。その後、トリオやコンビで活躍するが、昨年解散。今年4月から義手で三味線を弾く漫談師として活動している。


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