“診察待ち”で再会したかつての上長は3回目のがん手術を受けるという
診察室の前の廊下には長椅子が設置され、患者は壁にかかったテレビに向かって待つようになっています。患者は“呼び出し器”を渡されていて、順番が回ってくると呼び出し音と表示があり、診察室に導かれます。機器が鳴ると、待っている患者は自分のものが鳴っているのかどうかを確かめます。
その日、Sさんは採血などの検査を済ませ、診察室の前で40分ほど待っていました。
「お、Sさん」
後ろから自分を呼ぶ男性の声がしました。振り向くと、マスクはしているものの目元が笑顔のFさんです。
Fさんは、以前、同じ職場で働いていた時の事務長でした。定年退職後は、年1回くらい当時の職場のメンバーが集まって食事会が開かれ、親しくさせていただいていました。その日はFさんも同じ医師の診察を受けに来たようです。
Fさんは、Sさんの隣に座って話し始めました。
「5年前、前立腺がんの手術を受けました。去年は食道がんを見つけていただいて、内視鏡で切除してもらいました。早く見つけてくれたおかげで長生きさせていただいています。今度は胃がんが見つかりまして、1カ月先ですが、これも内視鏡で取っていただける予定になっています。それに、私は心臓にペースメーカーが入っているんです。もう97歳になります」