斜視で近視だった女優の寺田有希さん「手術で世界が変わった」

公開日: 更新日:

寺田有希さん(ベンチャー女優/34歳)=斜視・近視

「あなたの目は厄介な目ですね」と、ずっと言われ続けていました。まさかその厄介な目でクリアな世界が見えるようになるなんて、まったく思っていなかったんですけど、2016年、ICLという手術をして裸眼で生活できるようになりました。

 私は右目に斜視を持っていて、2歳のときに手術をしています。正常な人は黒目が真ん中にありますが、斜視は黒目の位置が左右の目で違う方向を向いてしまいます。私の場合は、右目に強い斜視がありました。斜視の原因は眼球を左右から引っ張って安定させている筋肉の引っ張り具合が違うこと。そのバランスを良くする手術を受けたのです。ただ、斜視の度合いがひどかったらしく手術でも限界があって、術後も小学2年生ぐらいまで大きな病院に通って治療を続けていました。

 正常なら、左右それぞれの目で見ることで、奥行きや立体を感じ取るのですが、斜視は、片方の目がもう片方の目をカバーしてしまうことで、両方の目で見る機能がうまく働かないことが多いようです。特に私は深度(距離や遠近感を測る能力)が乏しかったので、それを鍛えるために利き目の左目にアイパッチ(シール式眼帯)を貼って、手術をした右目で過ごしたのです。幼稚園や小学校にも片目を隠した状態で通っていました。

 距離感を掴むのは今でも苦手なんですけれど、当時、「医学的にはこれ以上はどうにもならない」という上限まで訓練をしました。そこから2年間は裸眼で過ごしたものの、次第に視力そのものが落ち、小学4年生からは、視力矯正のメガネをかけ始めました。

 大人になるにつれ視力はさらに悪くなり、裸眼では生活できなくなりました。厄介なのは、左目の視力がすこぶる悪く、右目との差が激しいこと。それなのに右目は乱視の度合いが強いという医者泣かせの目……。メガネでは対応不可。両目で0.3が見えるか見えないかぐらいにするのが限界でした。

 生活の大半はコンタクトレンズで過ごしました。乱視があるならハードの方がいいと聞き、以来、ハードレンズ一点張り。メガネでは家の中でも生活しづらいので、お風呂以外は、寝る寸前までずっとコンタクトを着けっぱなし。それが当たり前だったので、不自由だとも思っていませんでした。

 ICLという手術を受けた経緯は番組の企画でした。「やってみませんか?」と提案を受けたときは、「何をしたって私の目は治らない。ちゃんと見えるようになるわけがない」と思っていました。手術も怖かったので、めちゃめちゃ悩みました。でも、最後に決断をしたのはこんな両親の言葉があったからです。

「健康な目に産んであげられなくて申し訳ないと思っていたから、その目が治るならうれしい」

 27年間、見えないのが当たり前でした。クリアな世界を知らないで育ちました。だから余計に手術が怖かったのですが、この言葉は大きかったです。

■術前のメガネ生活は恐怖だった

 ICLは、レーシックより前から行われているもので、虹彩と水晶体の間に眼内レンズを固定移植し、近視、乱視を矯正する屈折矯正手術です。手術は両目で15分ぐらいでしょうか。ただし、そこに至るまでの準備が大変でした。

 ハードコンタクトレンズをしているとどうしても眼球にレンズの形が付くので、それを元に戻す必要がありました。手術決意から手術までは約2カ月。手術の1カ月前に行う検診にはツルンとした状態になっている必要があったため、ハードレンズからソフトレンズに替え、検診直前はソフトレンズも外してメガネだけで生活しました。でもメガネでは家の中でも危なっかしい視力なので、近所のスーパーに行くだけで恐怖でした。メガネでのメディア出演も控えたかったのでスケジュールをやりくりしましたね。1カ月前検診が過ぎたあとはソフトレンズを中心に生活し、手術前日にはメガネにして手術に臨んだわけです。

 アッという間に世界が変わりました。左0.04と右0.09の視力から両目とも1.12になったのです。なにがうれしいかって、シンプルに朝起きた瞬間に周囲が見えること。プールにも入りやすくなりましたし、サングラスや伊達メガネを楽しめるようになったこともうれしい。もうゴミがレンズに入って痛むこともないし、レンズが目の裏にいっちゃうこともなければ、面倒な毎日のレンズケアもない。なにより、就寝中に地震が起こっても大丈夫という安心感。それが得られたことだけでも本当に手術して良かったと思っています。

 治らない病気や症状もあると思います。でも、ちょっと勇気を出せば治る可能性があるかもしれません。治療法は日進月歩なので、完全に諦めてしまうのではなく、情報のアンテナを張っておくことは大事だなと思います。

 手術によって視力とともに乱視も治りました。半径1メートルの世界が変わって幸せを満喫しています。

 でも、今でも斜視の症状は疲れると出ますし、距離感の悪さとは今も付き合いながら生きています。

(聞き手=松永詠美子)

▽寺田有希(てらだ・ゆき) 1989年、大阪府出身。2004年に芸能界デビューし、12年に芸能事務所との専属契約を終了して独立。23年1月に約10年間務めた「ホリエモンチャンネル」のアシスタントMCを卒業し、現在はメンズファッションチャンネル「B.R.CHANNEL Fashion College」などでMCを務める。初書籍「対峙力」が1万8000部を突破し、自身2冊目となる「自分を変える話し方」が発売中。



■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動