心筋梗塞を起こした後の心不全が急増しているのはなぜなのか
また、04年からは、狭窄した血管を広げるためにカテーテルで留置するステントとして、傷ついた血管が盛り上がることによる再狭窄を防ぐ免疫抑制薬を塗った薬剤性ステントが保険適用となり、さらに第2世代、第3世代と進化していきます。その過程で、循環器内科ではとにかくステントを留置するケースが急増しました。
その結果、冠動脈バイパス手術には回ってこない急性心筋梗塞の患者さんが多くなりました。発症から長時間が経過して、心筋がかなり壊死してしまった患者さんに対しても、カテーテル治療が行われるケースまで増えたのです。
そういった患者さんの多くは、慢性心不全に至る末路をたどります。カテーテル治療によって命が助かったとしても、心筋の一部が壊死していると、心臓は十分に収縮できなくなります。すると、壊死した心筋の代わりに問題のない箇所の心筋が働くため、心臓が広がって大きくなっていきます。その結果、心臓全体に負担がかかるようになり、心機能が低下して慢性心不全になってしまうのです。
また、一部の心筋の壊死による心機能の低下と、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満といった虚血性心疾患の危険因子が重複すると、高い確率で心房細動が起こります。そして、心房細動患者の脳梗塞発症リスクを評価する指標「CHADS2スコア」の危険因子の項目である心不全(左室機能不全)、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳梗塞(一過性脳虚血発作の既往)は、すべてが密接に関わっていることがわかっています。つまり、心機能の低下と心房細動があれば、当然、加齢とともにさらに心臓の働きは落ちていって慢性心不全に至るのです。