元世界王者佐藤修さん 鬼塚勝也と奇跡の飲み友になるまで
スーパーバンタム級の元世界王者で、引退後はボクシング解説や俳優として活動、近く配信のドラマ「アンダードッグ」に出演している佐藤修さん(43)。秘蔵写真は憧れのボクサー、鬼塚勝也さんとのスナップ。世界王者までの軌跡と鬼塚さんとの思い出を語ってもらった。
◇ ◇ ◇
地元神戸の高校のボクシング部に在籍中、テレビで見ていた世界王者が辰吉(丈一郎)さんや鬼塚さん。「西の辰吉、東の鬼塚」と呼ばれたボクシングの第2次黄金時代でどっちが好きか二分されてたほど人気でした。
僕はプロになるなら憧れの鬼塚さんのいる協栄ジムしか考えられなかった。ストイックで多くを語らず、熱いファイトを見せるところが好きでした。僕もしゃべるのは得意じゃなかったので(笑い)。
■最初は「こんにちは」と言っても無視された
高校でいい成績を挙げられたので、3年の時に顧問が協栄ジムに連絡を取ってくれて、練習を見てもらいに上京しました。その結果、特待生でとっていただくことになり、夏休みに協栄ジムの合宿に参加させてもらえて。その合宿中、6度目の防衛戦の前の鬼塚さんをジムでお見かけしました。当時の鬼塚さんはジムで誰とも話していませんでした。高校生の僕が怖がりながら「こんにちは」と言っても、無視されるという(笑い)。
翌1995年に僕が正式にジムに入る頃、鬼塚さんはケガで引退されたのですれ違いでした。鬼塚さんの表彰式で写真を撮ってもらいましたが、僕はいちファンとして接したので、まだ僕のことを知らなかったと思います。
■WBA世界王者になって実現したファーストコンタクト
7年を経て、2002年の2月、僕がメインでWBCの世界戦に挑戦した試合で、なんと鬼塚さんが解説者。でも、勝てず、対面する機会はなかったんです。
3カ月後に今度はWBAの世界戦に挑戦し、KO勝ち。世界王者になりました。この試合も鬼塚さんが解説者のおひとりで、試合直後に僕が解説席に移動し、インタビューを受けた時、隣に並んだのが正式なファーストコンタクトですかね。でも、その日も話す機会はありませんでした。
その3カ月後、初防衛戦に向けてハワイキャンプした時、TBSさんが取材に訪ねてくれて、鬼塚さんも同行されたんですよ。この写真はハワイ合宿でのスナップ。この時に初めて憧れの鬼塚さんと話ができました。世界王者という同じ肩書を持ってから、やっと話せたんです。
ハワイで「挑戦者が僕より背が低いサウスポーなのですが、どうしたらいいですか」と相談したら、「上体をもっと低くしなさい」とアドバイスをくださいました。でも……初防衛できなかったんですけど、その後も僕はフェザー級に上げて2回級制覇を目指して、世界戦は合計4試合やり、すべて鬼塚さんが解説をやっていただけました。
気心知れた人には冗談も言う面白い人
引退後、僕はTBSさんの解説に抜擢され、鬼塚さんと一緒に亀田興毅選手の試合解説を務めることに。雲の上の先輩と隣同士では恐れ多くてうまくしゃべれず、ビビリながらやってました。
そのうち「飲みに行こうか」と誘っていただけ、ようやく打ち解けることができたんです。憧れの人とサシで飲むのは、感慨深かった。王者時代の鬼塚さんは周りをシャットアウトしてストイックでしたけど、実は気心知れた人には冗談も言う面白い人です。
「ボクサー仲間で飲みに行くような人はいない」と言っていただけたので、すごくうれしかったし、「僕なんかでいいんですか」と思ってました。
僕は引退後、俳優業もやってきまして、今もボクシングものだとありがたいことにオファーをいただけます。
映画「あしたのジョー」の時に山下智久さんに少しボクシングを教えたように、今回の「アンダードッグ」は主演の森山未來さんとボクシングの絡みのシーンで、「こうした方がいい」とアドバイスを。出番は多くなくても元世界王者が出演するのは、ボクシング映画として説得力を求められているのかもしれません(笑い)。
▽さとう・おさむ 1976年12月、兵庫県出身。95年にプロデビュー。2002年にWBA世界スーパーバンタム級王者に。04年に現役引退後、試合解説や俳優業へ。
森山未來、北村匠海、勝地涼、水川あさみらが出演する劇場版「アンダードッグ」(前・後編)が27日から公開中。配信版「アンダードッグ」(全8話)は、ABEMAプレミアムにて来年1月1日から配信スタート。