“五輪反対”で札幌市長選出馬表明の高野馨氏が語る 汚職まみれの五輪に固執する市政の異常
高野馨(元札幌市市民文化局長)
東京五輪を巡る汚職事件で逮捕者が続出し「平和の祭典」のドス黒い実態が明らかになっているが、北海道・札幌市が懲りずに2030年冬季大会の招致に躍起だ。世論調査でも賛否が割れる中、「札幌五輪反対」を掲げて来春の市長選に出馬表明したのが元市幹部の高野馨氏だ。選挙前に札幌開催が内定しても「当選したら辞退する」と言ってはばからない。自治体にとって重要なのは、浮ついたビッグイベントよりも地に足の着いた「市民生活」だという。
■市長選を「住民投票」に見立て信を問う
──市長選への出馬を決めたきっかけは何だったのでしょう。
東京五輪を巡って、さまざまな問題が発覚する中、いまだに札幌市が招致に固執するのは異常と言うしかありません。市の意向調査では「賛成」が「反対」を上回りましたが、メディアの世論調査では「反対」の声が多い。私が知る限りでも「開催してほしい」と言う市民はほとんどいません。何より重要なのは、全市民を対象にした住民投票を実施すること。ところが、秋元克広市長は住民投票実施を提案できる立場にありながら、全くやる気がない。また、市議会では、私が市議に働きかけて提出された住民投票条例案が6月に否決されました。そこで、来春の市長選を事実上の住民投票に見立て「招致反対派」として出馬し、市民に信を問うべきと考えたのです。
──秋元市長は住民投票に後ろ向きなのですか。
通常、住民投票を実施するには、国の地方自治法に基づき、市民が自治体の有権者の50分の1以上の署名を集め、市に請求する必要があります。一方、札幌市では2006年、自治基本条例が成立。同条例は〈市は、市政に関する重要な事項について、住民の意思を確認するため(中略)住民投票を実施することができる〉と規定しています。つまり、秋元市長は「市政に関する重要な事項」である五輪招致について、住民投票を実施できる立場にあるわけです。ところが、全く動こうとしない。これは、条例違反であると指摘せざるを得ません。
──市長は五輪招致を「市政に関する重要な事項」とは考えていないというわけですね。
同条例の見直しなどには私も2度ほど携わっており、当該条例の策定当時に議論されていたのは「自分たちのことは自分たちで決める」「市民のことは市民で決める」という理念です。住民投票実施に消極的な秋元市長の姿勢は、明らかに条例の趣旨に反しています。市民の意思を正確に把握しないまま招致を進めることは許されません。
──確かに、市の意向調査は一部市民へのアンケートであり、「参考」という程度の位置づけでした。市民が意思表示する機会は当然必要ですね。特に、汚職事件の発覚後、市民の感情も変わってきているはずです。
市民は「事件が世間を揺るがしているのに、なぜ札幌市は招致をやめないのか」と疑問を抱いていると思います。私が半年ほど前に始めた「札幌冬季五輪の招致プロセスに『住民投票』を求めます!」というネット署名は、最初のうちは数百人程度しか集まりませんでしたが、事件発覚後の現在は1万7000筆に達しております。
──大会そのものについては、開催経費の膨張も問題視されました。
札幌市は開催経費について、2800億~3000億円とする試算を公表しています。うち、会場などの施設整備費が800億円。その中の450億円を市の負担としていますが、現在、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で資材価格が高騰していますから、この程度で済むとは思えません。さらに問題なのは、2000億~2200億円としている大会運営費。市は原則、スポンサー収入などで賄うと言っていますが、東京五輪のスポンサー契約を巡る汚職が発覚し、逮捕者が続出する中、手を挙げる企業がいるとは到底思えません。
──東京五輪の開催経費は、招致段階で7000億円と試算されましたが、結果的に1.6兆円に膨張。関連経費まで含めると3兆~4兆円に上ると指摘されています。やはり札幌五輪の開催コストも雪だるま式に増えていくかもしれません。
直近の冬季3大会の経費については、14年ソチが5兆円、18年平昌は1.4兆円、22年北京は4兆円と指摘されています。札幌大会が2800億円程度で済むでしょうか。資材高騰など、もろもろの状況を踏まえると、1兆円程度はかかるとみています。