リアル二刀流を生んだ自信と末っ子気質とアタマ
プラスに作用した末っ子気質
■年上と遊ぶ機会と体力
大谷がプロ1年目の13年。日本ハムは前年にリーグ優勝。エースの吉川光夫が14勝をマークすれば、主砲の中田翔は24本塁打をマーク。投打ともそれなりの選手がいたにもかかわらず、高卒1年目から、それが当然であるかのごとく投打の二刀流にチャレンジした。
山田スカウト顧問の言うように自信があればこそだろうが、両親が危惧したように周囲に生意気と映ったり、軋轢が生じたりしかねない。そんな状況下でプラスに作用したのが末っ子気質というか、大谷の性格というか考え方だ。
3人きょうだいの末っ子。上に長男と長女がいて、姉体小時代は放課後、姉とともに学校に隣接する児童センターで遊んだように年上の子供と接することが多かった。
兄の友達ともよく遊んだ。何かをする前に、じっくり周囲を観察、他人を不快にさせるようなことは決してしなかった。幼少時から何げなく友達の輪に入って、何げなく一緒に遊んで、何げなく帰ってくる。年上と遊ぶ機会は多かったし、彼らと遊ぶだけの体力もあった。
高校3年時のU18韓国遠征。日本ハムの山田スカウト顧問は、大谷の性格を知りたくて現地に飛んだ。岩手出身。東北出身にはどちらかといえば、引っ込み思案の選手が多い。実力を発揮する以前に、生き馬の目を抜く世界に埋もれてしまう高校生をこれまで何人も見てきたからだ。
U18のメンバーには藤浪、北條史也(阪神)、田村龍弘(ロッテ)、森友哉(オリックス)ら大阪出身者が中心で、「大阪弁は独特。一方的にまくしたてられたら、ボクらでも気後れするというか、ひるんでしまうようなところがある。そんな中に東北出身の大谷が入っていってどんな反応を示すのか、そもそも輪に入っていけるのかどうか。性格を見極めるうえで絶好の機会だった」と山田スカウト顧問は話す。
■輪の中心で身ぶり手ぶり
試合前のベンチ。練習の合間、大阪出身者が中心になって輪ができた。大阪弁が飛び交い、時折笑い声が聞こえる。ベンチから大谷が出てきた。横目でチラッと大阪弁の輪を見る。山田スカウト顧問が「そのまま通り過ぎるんだろうな……」と思った次の瞬間、すっという感じで自然に近づき、輪の中に入っていった。そして30秒もしないうちに輪の中心で身ぶり手ぶり、選手たちの笑いを誘っていた。「この子の性格はプロでやる上でプラスになる」と山田スカウト顧問は確信したという。
中学時代の担任もまた大谷の性格を心配したひとりだった。困っている子がいれば助け、物を忘れた子がいれば自分の物を貸した。
シニアで飛び抜けた実力を発揮しても、中学の野球部の試合には「出ない方がいい」と言う。練習時には自分から進んで球拾いをし、ノックの球出しまで買って出た。
プロ野球選手といえば、オレがオレがの勝ち気なイメージ。少しくらいテングになる方がいいのではないかという気もしていた。なのでプロでやっていくには、大谷は優し過ぎる気がしたという。担任のそんな心配はしかし、杞憂だった。大谷の実力が投打で突出していたことはもちろん、投げて打って1人で2人分の仕事を掛け持ちできたのは、ナインの理解を得ていたからこそ。周囲に敵をつくらず、年上にもすんなり溶け込める末っ子気質がプラスに作用した。