リアル二刀流を生んだ自信と末っ子気質とアタマ
「西海岸の小規模都市」にこだわった理由
■ヤンキースGMの捨てゼリフ
大谷のそんな人間性というかスタンスは進路選びにも影響した。
一関シニアは大谷がいた当時、全国大会にも出ていない。中学時代から有名だった菊池雄星には関東を含め、多くの野球強豪校から声がかかったものの、大谷に対しては4校ほどだった。その中には関東の学校もあったらしいが、父親の徹さんは都会の学校だと埋もれてしまうかもしれないと危惧した。関東の学校でなく地元の花巻東を選んだ大谷もあるいは、父親の影響を受けたのかもしれない。
日本ハム入りはドラフトで自分の意思は関係ないとはいえ、メジャー挑戦する際の球団選びが象徴的だった。
ポスティングシステムで米球界入りした17年オフ、多くの球団が獲得に名乗りを上げた。ヤンキースもその中のひとつ。キャッシュマンGMは当初、獲得に自信をもっていたが、2次選考の面談にすら進めずソデにされた。その際、「我々がビッグマーケットをもっていて、東部にあることは変えられない。この街やファンには誇りをもっている」とコメントした。それなら、どうぞ西海岸の小規模都市でプレーしてくださいと言わんばかりの“捨てゼリフ”だった。
大谷が「西海岸の小規模都市」にこだわったのは理由がある。メジャーで二刀流は、かのベーブ・ルース以来。ほとんど前例がないわけだから、日本ハムで始めたとき以上の波紋を呼ぶ。十分な機会を与えられれば結果を出す能力も自信もあるものの、特に東海岸の人気も実力も兼ね備えた球団では、さっさと見切りをつけられてしまう可能性があったからだ。
■相手打者のクセや特徴をインプット
実際、1年目のスプリングトレーニングでは投げて防御率27.00、打って打率.125。
ファンやメディアのやかましい東海岸の強豪球団にいたら、年俸が数千万円と格安なこともあって、開幕後は二刀流どころかスタメン落ちの危機だったに違いない。二刀流としての才能はファンやメディアが温かく、長い目で見てくれるエンゼルスだったからこそ開花した。
自分の才能を生かせる環境を正確にチョイスする嗅覚というか、アタマが大谷にはある。それもまた、大きな武器だ。
中学時代、野球部に所属するも、シニアでプレーしていることもあって試合には出ず、監督とともにベンチにいた。相手は初めて見るチーム。なのに試合が中盤に差し掛かると、「この選手の打球は右方向、スイングのクセがそうですから右に行くはずです」と、打球の方向を言い当てた。スコアを付けているわけでもないのに、試合中盤までに相手打者のクセや特徴をインプットしていたのだ。
中学時代は学校の成績も良かった。40人弱のクラスで、成績は上位。地元の進学校、県立水沢高校にフツーに行けるくらいだったという。メジャーは球団数も多い。投打ともさまざまな選手と対戦するうえで、そういったアタマの良さも役立っている。
人に負けたくないという強い気持ち、身体能力に支えられた自信、能力を生かすための環境を選べるアタマ……それらがあるからこそメジャーでも大成したが、そんな大谷をもってしてもまだ成し遂げていないのがチームの世界一だ。