2030年冬季五輪に突然、スウェーデンとスイスが開催名乗りを上げた裏側
6月29日、山下泰裕氏が日本オリンピック委員会(JOC)会長に再任された。3期目となる。2019年、山下氏がJOC会長に初めて就任した時、私は大いなる期待を持った。それは彼が「嘉納治五郎先生の志を継ぐものでありたい」と語ったからだ。
嘉納治五郎が1911(明治44)年、大日本体育協会を設立したのは、オリンピックに参加するためだった。参加するには、その国のスポーツを統括する団体として国内オリンピック委員会が必要だった。柔道の創始者として「精力善用、自他共栄」を唱える嘉納はアジア初の国際オリンピック委員会(IOC)委員として、時のIOC会長クーベルタンの「スポーツによる世界平和構築」の理想に共鳴していたのだ。
山下JOCは前途洋々に思えた。モスクワボイコットの悲劇を克服し、ロス五輪で負傷しながら金メダルを獲得した柔道家が、嘉納の精神を受け継ぎ、JOCを指揮していくのである。
ところが、20年初めにコロナが世界を襲い、東京五輪2020が翌年に延期となり、世論が開催批判に傾く中、山下会長から五輪の理念、開催の意義を訴える声は聞こえてこなかった。嘉納であれば「平和の祭典」の意義を熱弁しただろう。