「北斎と応為(上・下)」キャサリン・ゴヴィエ著 モーゲンスタン陽子訳
北斎の娘お栄の生涯をカナダ人女性作家が描く歴史小説で、なかなか読ませる。浮世絵の世界を描いた小説は近年、河治和香の「国芳一門浮世絵草紙」シリーズ5巻がまだ記憶に新しい。「侠風むすめ」「あだ惚れ」「鬼振袖」「浮世袋」「命毛」─―すべて小学館文庫だが、負けず劣らず、こちらもいい。
春画を描くときに北斎は娘たちの「まっ平な胸も、股の裂け目も、全部調べ」てひな型にしたとか、お栄が16のときに式亭三馬の女になったとか、どこまでが事実に基づいているのかどうかはわからないが、実在しながらも生没年不詳の絵師の生涯を鮮やかに描きだしている。
訳者あとがきによると、この著者は、主人公の日系カナダ人が第2次大戦前夜のデリケートな時期に日本に来て海女になるという設定の小説を本書の前に発表していて、さらに、カナディアンロッキーを舞台にした次回作には日系人のキャラクターが登場するとのこと。日本への関心は本書だけではないようだ。2段組み24ページに及ぶ熱の入った本書の著者あとがきには、そういう「日本への愛」があふれていて、読ませる。