正月に読みたい特選小説
(集英社 1800円+税)
■「一私小説書きの日乗 野性の章」西村賢太著
芥川賞作家が自らの日々を赤裸々に描いた日記文学。某社の媒体で連載中だった本作だが、訳あって発表の場を別の出版社発行の月刊誌に移動した2013年5月からの1年分を収録する。
レギュラー出演していたテレビ番組を突然降板した顛末をはじめ、友人付き合いをするタレントとロケ先の九州で「飲む・打つ・買う」を堪能、そして数カ月後にはそのタレントと何がきっかけかも覚えていないような理由で、飲み屋で取っ組み合いの大喧嘩となり後悔。
さらに、憧れの元プロ野球選手との邂逅や、無名時代の自分の作品を誌面で紹介してくれた作家への思い、そして「買淫」の記録まで。
メディアで見かけるイメージ通りの無頼な生きざまと、時折みせる繊細な心模様が率直につづられ、つい読みふける。
(KADOKAWA 1600円+税)
■「暗黒寓話集」島田雅彦著
保険の営業マンのオレは、睡魔と闘いながら埼京線で十条駅に向かう。借金返済のために夜は繁華街でアルバイトをして深夜3時に帰宅する日々が続いていた。駅前でラーメンを食べて歩き始めたオレは、体に異変を感じ、目覚めると、公園のベンチに横たわっていた。オレの顔をのぞき込む少年は、小学校の同級生の安藤にそっくりだった。