「蜜蜂と遠雷」恩田陸著
3年ごとに開催される芳ケ江国際ピアノコンクールには世界中から精鋭が集まり、そのレベルの高さは折り紙付き。3次の予選を経て本選までの2週間、熾烈な競争が繰り広げられるが、物語は4人のコンテスタントに焦点を当てながら進んでいく。
伝説的な世界的名ピアニストの秘蔵っ子で15歳の風間塵は、養蜂家の父と一緒に各地を転々とし自宅にピアノを持たないという変わり種。栄伝亜夜は天才少女として才能を高く評価されていたが13歳のときに母を亡くし、そのショックでコンサートをドタキャン。以来ピアノ界から遠ざかり、今回7年ぶりに復活。
19歳のマサル・C・レヴィ・アナトールは、ジュリアード音楽院に在籍する完璧な技術の持ち主で優勝候補の最有力。楽器店に勤務し妻子もある高島明石はコンクール年齢制限ぎりぎりの28歳で、この大会に最後の夢を懸ける。
4者4様の音楽への思いを丁寧に描いていくのだが、圧巻なのは彼らが演奏する音楽を可能な限り言葉で伝えていこうとする作者の執念。これほどまで「音」に迫った小説の誕生に感動を覚える。(幻冬舎 1800円+税)