阪神ファンの良いのは数少ない優勝を鮮明に覚えていること
「1985 猛虎がひとつになった年」鷲田康著/文藝春秋 1500円+税
阪神タイガース創立80周年と唯一の日本一を決めた1985年から30年の節目で出版された85年の阪神を振り返る書籍である。発売から2年が経過した本ではあるが、まぁ、読むにあたっては30年前だろうが32年前だろうが大した差ではない。
阪神は毎年のように「今年はイケるで!」と期待させ、結局はしぼむということを繰り返しつつも妙に愛される球団である。64年に優勝してから21年を経て85年に優勝した時は「次の優勝も21年後か……」などとジョークで語られたが、結局次の優勝には18年を要した。その2年後にも優勝はしたものの、以来11シーズン優勝からは遠ざかっている。今シーズンも優勝は厳しい。
ただし、阪神ファンをやっていて良い点はある。巨人やソフトバンク、西武とは異なり、優勝回数が少ないため、個々の優勝を鮮明に覚えているのだ。その中でも85年はやはり特別だった。バース、掛布、岡田の「バックスクリーン3連発」が象徴するようにこの年の阪神は打ちまくったが、その裏側が克明に記されているのが本書である。
弱い阪神でも応援するが、せめて圧倒的に強かった年の素晴らしい記録は死ぬ前にきちんと読んでおきたいよ……と考える諸兄は手に取りたし。
印象的だった話をいくつか紹介する。
・真弓明信は84年シーズン、ルーキー・池田親興に翌年の優勝を予言していた。
・平田勝男は4月25日から4月27日にかけ、打率4割5分でセ・リーグの暫定首位打者だった。
・ラッキーセブンにおける「ジェット風船」を使った応援は甲子園の阪神ファンによるものが有名だが、元祖は広島カープ。
・「史上最高の助っ人」の呼び声高いバースは実は3番目の候補だった。2番目は日本ハムで2シーズン37本塁打を打ったパット・パットナム。
あの時の阪神ファンは、4月から10月の半年間、夢を見続けたことだろう。その半年間の重要な転機(球団社長が御巣鷹山事故で逝去)やらキーマンの活躍などが事細かにつづられている。阪神を勢いづけた「河埜和正のエラー」や、「巨人が王貞治のシーズン最多55本塁打を避けるため最終戦でバースとの勝負回避」なども懐かしさ満点だ。
なお、「バックスクリーン3連発」とはいうが、掛布のホームランはバックスクリーンの右側だったというネタも披露されている。
★★★(選者・中川淳一郎)