「闇の日本美術」山本聡美著
古い日本絵画に描かれた「闇」をのぞき込み、当時を生きた人々が何を恐れ、その恐怖といかに対峙、共生してきたかを考察するアートエッセー。
6世紀に伝来した仏教の経典「華厳経」には仏の足元から放たれた光明が世界の隅々を照らす場面が描かれる。そのとき、菩薩の姿が明らかになるとともに世界の最下辺にある地獄の情景も浮かび上がり、人々は初めて地獄の存在を知った。
現存最古の地獄絵である東大寺二月堂本尊十一面観音像の光背の線刻をはじめ、平安時代末期に制作された「地獄草紙」など、恐怖・苦痛・絶望を可視化した「地獄図」を読み解いていく。そのほか、「餓鬼草紙」や「病草紙」、死体が朽ちてゆく様を描いた「九相詩」など、絵画から日本人の死生観に迫る。
(筑摩書房 880円+税)