いつもと違う電車に乗ろう 気軽に出かける旅の本

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「夜行バスで出かけましょう」小川かりん著

 ふと日常から離れたくなったとき、旅に出るというのも有効な手段だ。べつだん遠くまで空間移動する必要はない。いつもと違うバスや電車に乗るだけで、いつもと違う空間に迷い込む。口笛でも吹きながら、さあ出かけよう。

 利用してみると便利なのが夜行バス。夜、出かけるというのが、非日常感があってわくわくする。バスといってもけっこう長距離の移動が可能だ。

 著者が住んでいる岡山から20時30分発の東京行きに乗ると、翌朝7時ごろには新宿バスタに到着。早朝から夜まで一日を有効に使える。椅子はリクライニングシートで、フェースカーテンもついているからぐっすり眠れる。しかも料金は、1席ずつ離れている3列シートタイプでも新幹線片道料金の半額程度だ。回数券や往復割引などもあってかなり割安。同じ夜行バスでも鉄道会社系のバスと旅行会社系のバスの違い、アイマスクやエアピローなど、持っていくと便利なグッズのリスト、サービスエリアで降りる時の注意点など、きめ細かな情報も満載。

 夜行バス旅の楽しさが伝わってくるコミックエッセー。

 (イースト・プレス 1000円+税)


「用事のない旅」森まゆみ著

 育児と仕事に追われて、外国に行きたいとも思わなかった著者は、20年ぶりにパスポートをとってインドへ。ハウラー駅から夜行でプーリーへ行くのだが、予約した寝台が何号車の何番かは列車が来るまで分からない。やがて、1台の機関車が40両近くの車両を引っ張って到着。ノリとハケを持った男が客の名前をタイプした紙を貼っていく。ようやく自分の名前を見つけた。

 プーリーで、沢木耕太郎の「深夜特急」か藤原新也の「インド放浪」を持った日本人男子学生たちを見かけた。生水飲んで大丈夫ですかと聞かれて、そんなにビクビクするのならインドなんか来なきゃいいと腹が立つ。だが、帰りの駅で一緒になった男子は、僕はここで寝ますと、巡礼がマグロのように横になっている場所にリュックを下ろしたので、ちょっと見直した。

 著者流の一人旅のエッセー。

 (産業編集センター 1000円+税)



「全路線紹介 千葉の鉄道ぶらり途中下車」山下ルミコ著

 東京の隣なのに、けっこう変なものが多いのが千葉。落花生の特産地として知られるが、総武本線八街駅の北口には、巨大な落花生のモニュメントがある。市内にある国内で唯一の落花生専門の公的機関、千葉県農林総合研究センター「落花生試験地」にも寄ってみたい。

 童謡「月の沙漠」のモデルになったのが、外房線御宿の海岸だ。駅から徒歩10分の「月の沙漠記念公園」には、ラクダに乗った王子さまとお姫さまの像が並んでいる。近くには、ふるさと創生事業でアラビア風の「月の沙漠記念館」も建てられ、ちょっとエキゾチックな雰囲気。休日に子連れで行くのもいいかも。

 ほかに、里山トロッコ列車(写真、要予約)に乗れる小湊鉄道上総牛久駅、日本初の実測日本地図を作成した伊能忠敬の旧宅や「伊能忠敬記念館」がある成田線佐原駅など、千葉の情報を満載。

 (フォト・パブリッシング 1600円+税)


「日本文学気まま旅」浅見和彦著

 元暦2(1185)年に源平最後の戦いが繰り広げられた山口県の壇ノ浦。ここは日に4回、海流が変わるが、その速さは時に10ノッ6を超え、平家の敗北に影響を与えたという説もうなずける。

 関門海峡の下の海底トンネルを歩くと、時折、ドンドンという音がするが、それは平家の亡霊の声のように聞こえる。

 日本海側の鳥取県の白兎海岸は、「古事記」に紹介された「因幡の白兎」の舞台である。ここには白兎を祭った白兎神社や、ワニを怒らせて皮をむかれた白兎が体を洗った御身洗池がある。この話は南方に源流があるらしく、ボルネオやインドネシアに同じような話が伝わっている。はるか古代に因幡の地が東南アジアと結びついていたことがわかる。

 他に、三島由紀夫の「潮騒」の舞台・伊勢の神島など、文学に描かれた地を訪ねる旅。

 (三省堂 1600円+税)



「おとなの『ひとり休日』 行動計画 首都圏日帰り版」カベルナリア吉田著

 東京にもローカル線はある。例えば都電荒川線で、「東尾久三丁目」という地味な駅で下車したら、なんの変哲もない中規模マンションが立ち並んでいるだけ。「宮ノ前」駅まで歩くと「幸せふくらむ宮前商店会」の看板が……。昭和の香り漂う喫茶店の窓には、演歌歌手「千葉一夫」さんのポスター。隣のスナックの壁も千葉さんだらけ。その先の店で、「ニュータッチとんかつ」なる不思議なとんかつを食べた。確かに小さな幸福感がふくらむ商店会だった。

 荒川線は全30駅だが、「全駅制覇」はローカル線乗りつぶしの旅の醍醐味である。ほかに、中央線三鷹駅近くの、かつて中島飛行機武蔵製作所にひかれていた引き込み線の廃線跡(現在はグリーンパーク遊歩道)や、京浜急行立会川駅近くの、八百屋お七が火あぶりになった鈴ケ森刑場など、訪ねてみたい20カ所を紹介。

 (WAVE出版 1500円+税)


【連載】ザッツエンターテインメント

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