「人権の世界地図」アンドリュー・フェイガン著、長島隆監訳、長島隆ほか共訳

公開日: 更新日:

「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である」(第1条)とうたう世界人権宣言が国連総会で採択されてから70年が過ぎた。

 その間、近年のLGBTの人たちへの理解や受け入れ、「#MeToo」運動が象徴するように、かつては社会全体が見過ごしてきたセクハラに対する過去に遡っての糾弾など、時間をかけながらも地球規模で人々の人権に対する意識は変わってきた。

 しかし、一方で独裁国家による表現や宗教的自由への介入や制限など、基本的人権さえ守られていない状況も続いている。

 また、世界の警察を自任するアメリカが国民や社会を守るとの大義のもと、テロ容疑者に中世並みの拷問をしていたことが明らかになったこともあった。

 日本も、児童虐待や学校でのいじめと自殺、性犯罪の加害者が無罪になっている「寛容さ」、さらに、廃止が国際的な大きな流れになっている死刑を続けていることなどが人権侵害として国際的な非難を浴びている。

 本書は、こうした世界各国の人権状況を世界地図に落とし込み、視覚化して国家間の人権の不平等と人権侵害の実態を明らかにしながら、人権の基本的な問題について解説、考察したビジュアルテキスト。

 政府が正しく振る舞えば、正しくまともな社会を手にできる可能性は最大になり、真の民主主義国家は集会の自由などの市民権や政治的権利を尊重する。

 冷戦の終結によって、民主主義国家の成長が世界中にもたらされたと考えられているが、基本的人権を十分に法制化することはなく、頻繁に人権を侵害している、名目だけの民主主義国家もまだ多数存在する。

 まずは各国が確立した民主主義国家なのかどうか、その政治制度を色分けしてみる。すると、「弱い、不確かなあるいは過渡期の民主主義」「事実上の、あるいは形式的なひとつの政党の支配」「軍事独裁」「専制制あるいは神権制」「無秩序の国家」などと、世界はたちまちモザイク模様をつくりだす。

 同様に、「選挙権への制限」、国民の教育レベル、1人当たりの国民所得などによって評価する「人間開発指数」「改善された水源にアクセスできる人口の割合」など、さまざまな指標からそれぞれの国の現在を明らかにしていく。

 国内の富の配分を指数化して表した「富と不平等」では、27人の10億ドル長者が1070億ドルの資産を持つ一方で、国民の約80%が世界銀行が設定した1人1日2ドルの貧困所得以下で暮らすインドなど基本的人権の根幹に関わる富と不平等の現実を突きつける。

 ほかにも「司法侵害と法規制」をはじめ、「表現の自由と検閲」「紛争と移住」「差別」、女性や子どもの権利まで。さまざまな観点から人権について世界の現状を解説。

 人権問題について知る、考える格好の教科書としておすすめだ。

 (丸善出版 2800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  4. 4

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  2. 7

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり

  3. 8

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  4. 9

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  5. 10

    遅すぎた江藤拓農相の“更迭”…噴飯言い訳に地元・宮崎もカンカン! 後任は小泉進次郎氏を起用ヘ