「アパレル興亡」黒木亮著

公開日: 更新日:

 主人公は、親の反対を押し切って高校卒業後、山梨から上京した田谷毅一。大学への進学が経済的事情でかなわず、ならば東京で自分の力を試そうと思い立ったのだ。就職したのは、朝鮮戦争の特需景気に沸く服飾業界で成長中の「オリエント・レディ」。創業者の池田定八の厳しい指導のもと、次第に頭角を現し始める。やがて社長になった田谷は、自社を日本を代表するアパレルメーカーに押し上げる。確固たる力を持った田谷は、社内の誰も逆らうことのできない絶対的な存在になっていた。しかし、そんな田谷にも時代の変化が容赦なく訪れる。

 婦人服メーカー「東京スタイル」の社長・高野義雄氏をモデルにした主人公・田谷を軸に、アパレル産業の栄枯盛衰を描いた経済小説。イトーヨーカドー創業者の伊藤雅俊氏や村上ファンドの村上世彰氏、ユニクロの柳井正氏など実在の人物も登場し、ヒルズ族との攻防などよく知られている史実も織り交ぜながら、アパレル業界の変遷をたどる。繁栄を極めたメーカーが、硬直化した社内事情に足を取られているうちに新興勢力に取って代わられる様子がなんとも切ない。

(岩波書店 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ

    大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ

  2. 2
    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

  3. 3
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 4
    「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

    「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

  5. 5
    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

  1. 6
    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

  2. 7
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  3. 8
    杉咲花&若葉竜也「親密報道」後も評価上昇 「アンメット」の演技にはゴシップを超える力がある

    杉咲花&若葉竜也「親密報道」後も評価上昇 「アンメット」の演技にはゴシップを超える力がある

  4. 9
    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

  5. 10
    まるで大使館…剛力彩芽&前澤社長の“100億円豪邸”を発見

    まるで大使館…剛力彩芽&前澤社長の“100億円豪邸”を発見