著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「女神のサラダ」瀧羽麻子著

公開日: 更新日:

 ほうれん草は、葉物の中でも飛び抜けて寒さに強い。霜をかぶって半分凍ってしまったように見えても、昼間の日差しに当たれば復活する。溶けた霜が露となって畑一面をきらきらと輝かせるのだ。高樹農園に入社したばかりのころ、「夜明けのレタス」の語り手・沙帆はその光景を見て、美しいと思う。

 そういう自然の厳しさ、美しさがあちこちから立ち上がってくる。高原レタス、北海道の馬鈴薯、諫早のアスパラガス、和歌山のレモン、小豆島のオリーブ、石川のトマト。さまざまな野菜と葉物が次々に登場して、それらを作る人々のドラマが始まっていく。

 たとえば、「オリーブの木の下で」で語られるのは、光江の恋だ。彼女は20歳になったばかりの頃、ギリシャ人のレオと恋に落ちるが、突然彼は故国に帰っていく。そして2年後、レオは故郷で死んだと知らされる。光江にとっては短い恋だ。それから50年後、レオのスケッチブックを持って、日本人の青年がオリーブの島を訪ねてくる。スケッチブックを開くと、若かった頃の光江の肖像が描かれている。そしてもう一つの真実を知る――。

 幼なじみと22年ぶりの再会を描く「トマトの約束」を含め、この作品集には「いい話」が多く、この手の「善意あふれる」作品を批判的に読む層もいるけれど、このつらい時代だからこそ、こういう話を読みたいという気もするのである。

(光文社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末