「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん著

公開日: 更新日:

 現在よく目にする便利屋は、およそ1970年代半ば以降から出現したとされる。旧来の家族形態の解体、高齢者の一人暮らしの増加といったことも関連しているのかもしれない。一口に便利屋といっても、部屋の片づけ、家具の組み立て、庭木の剪定、買い物や食事作り……と仕事の範囲は広い。本書の主人公が経営する便利屋にもさまざまな依頼が舞い込む。

【あらすじ】多田啓介は神奈川県に突きだすような形で存在する東京南西部のまほろ市のまほろ駅前で便利屋を営んでいる。正月早々、帰省する家族の飼い犬のチワワを預かった後、多田が向かったのは街道沿いの旧家。家の前の停留所を通るバスが時刻通りに運転しているかチェックしろという奇妙な依頼だ。

 終バスまで確認を終え帰ろうとすると、預かったチワワがいない。慌てて捜すとバス停前のベンチにチワワを抱えた男がいた。男は高校時代の同級生で変人として知られた行天春彦だった。妙な経緯から行天は多田の部屋に居候することとなり、役立たないながらも仕事を手伝うようになる。

 2人の元に持ち込まれるのは、駅前の売春街で働く女性につきまとう男の撃退、塾に通う小学生の送り迎え、マスコミに追い回される女子高生の身辺警護……など風変わりなものばかり、しかもそこに事件がまとわりついてくるのだから厄介この上ない。それでもこのコンビは右往左往しながら解決していく――。

【読みどころ】突然現れた謎の男、行天の正体を軸として、多田と行天の関係、そして多田が便利屋を開業した理由などが徐々に明らかになっていく。直木賞受賞作で、マンガ、テレビドラマ映画にもなっている人気作。続編に「番外地」「狂騒曲」がある。<石>

(文藝春秋 600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ

    大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ

  2. 2
    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

  3. 3
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 4
    「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

    「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

  5. 5
    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

  1. 6
    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

  2. 7
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  3. 8
    杉咲花&若葉竜也「親密報道」後も評価上昇 「アンメット」の演技にはゴシップを超える力がある

    杉咲花&若葉竜也「親密報道」後も評価上昇 「アンメット」の演技にはゴシップを超える力がある

  4. 9
    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

  5. 10
    まるで大使館…剛力彩芽&前澤社長の“100億円豪邸”を発見

    まるで大使館…剛力彩芽&前澤社長の“100億円豪邸”を発見