銃社会アメリカ
「それでもあなたを『赦す』と言う」ジェニファー・ベリー・ホーズ著 仁木めぐみ訳
人種差別と並んでアメリカの宿痾とされるのが銃犯罪。その実態と背景を探る。
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銃乱射事件の絶えないアメリカ。単なる暴力犯罪ではなく、人種や宗教の絡むヘイトクライムが背景にある。2015年、米南部サウスカロライナ州チャールストンで、黒人教会の参列者を装った白人の若者が突如乱射を始めた。12人の出席者のうち9人が死亡。逮捕後、21歳の犯人ディラン・ルーフは自分の思想は正しいのだと主張。しかしその中身はネットで検索したフェイクな記事を読みふけったあげく、「人種問題の真実」に覚醒したというトンデモ思想だった。
ところが、世間はその後あっと驚くことになる。事件の舞台となったエマニュエルAME教会の被害者信徒の遺族たちが、ルーフのことを「赦す」と公表したのだ。敬虔な信者の多いことで知られる黒人教会とはいえ、人種差別の激化する現代では唖然とする「隣人愛」ではないか。
子供たちも教会の向かいにある学校に通ったという。地元を愛する人間として、彼らの「赦し」に共感しながらも、自分に同じことがあったら果たして同じ行動をとれるのか?
著者は地元紙「ポスト・アンド・クーリエ」の白人女性記者。駆り立てられる思いで遺族に取材し、裁判を傍聴した。赦しとは何か、癒やしとは何か。著者は最後まで無言のうちに問いかけているようだ。
(亜紀書房 2500円+税)
「アメリカと銃」大橋義輝著
銃に縁の深いアメリカの歴史的名士たち。日露戦争講和のお膳立てをしたことでも知られるセオドア・ルーズベルト大統領。狩猟を愛しながら猟銃自殺した文豪ヘミングウェー。西部劇の大スター、ジョン・ウェイン。本書は彼らの生涯を紹介しながら銃とアメリカ文化の関わりをたどる歴史エッセー。
西部開拓時代に名声を馳せたウィンチェスター・ライフルの御曹司と結婚したサラ・ウィンチェスターは、幼い娘と夫を相次いで亡くし、占い師の託宣で西部の町サンノゼに隠棲。世捨て人のように閉じこもりながら豪邸建築に散財し続けたという。
学生時代にアメリカ留学した著者は元フジテレビ記者。アメリカの銃規制には「反対派ではないが、擁護派でもない」という。
(共栄書房 1500円+税)
「『偉大なる後進国』アメリカ」菅谷洋司著
著者は1949年生まれの団塊世代。17歳で念願かなってアメリカの高校に留学。以来、アメリカは著者にとって「故郷」になったという。
共同通信の写真記者を経てフリーになった著者は、オバマ大統領誕生の2008年にアメリカを長期取材。それ以来、各地を旅して得た見聞や取材で本書を書き上げた。
その第3章が「銃社会を生きる若者たち」。コロラド州コロンバインは2人の高校生が校内で乱射事件を起こし、13人を射殺、24人を重軽傷させた有名な町。いまここは21年前に起きたこの事件に「憧れ」る若者たちの「聖地」になっているという。
若者たちは自分が差別者との実感がないまま白人至上主義にかぶれる。その様子が著者には痛ましく感じられるようだ。全体にノンフィクション調で書かれたエッセー集だが、この章だけは重苦しい。
(現代書館 1500円+税)