「内なるゲットー」サンティアゴ・H・アミゴレナ著 齋藤可津子訳

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 主人公は、ポーランドの首都ワルシャワから、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスに移住したユダヤ人のビセンテ・ローゼンベルグ。ポーランドの反ユダヤ主義に辟易して国を離れたビセンテは、アムステルダム、パリ、ボルドーと移動した末、船に乗ってアルゼンチンにたどり着く。

 そこで妻となるロシータと出会い、家具の販売店を開き6年で3人の子どもに恵まれた。安定した生活を確保したビセンテの気がかりは、祖国に残した母親のこと。いつか呼び寄せようとは思うものの、母親に対する疎ましさもあり、積極的に行動することができなかった。

 しかし、ドイツがポーランドに侵攻してユダヤ人への迫害が日増しに高まるにつれ、頻繁に来ていた母親からの手紙が途絶え始める。やがてユダヤ人大量殺戮の噂が耳に届くようになり、ビセンテは次第に沈黙の中に閉じこもるようになっていく……。

 第2次世界大戦中に起きたホロコーストの惨劇に、なすすべもないまま心を痛める主人公を描いた話題の書。小説といえども実在の人物がモデル。母親からの実際の手紙も掲載されており、史実の重さに圧倒される。

(河出書房新社 2000円+税)

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