「お天道様は見てる 尾畠春夫のことば」白石あづさ著
2018年8月、尾畠春夫さんは瀬戸内海の島で行方不明の2歳児を発見、その名が全国に知れ渡った。年金でつましく暮らしながらボランティア活動を続ける独自の生き方が注目され、取材が殺到した。
ライターでフォトグラファーの著者も、取材のために尾畠さんの大分の自宅を訪ねた。家の内外は得体の知れない物であふれ、壁には無数の張り紙。初対面の著者に怪しげなクイズを出して困惑させたかと思うと、留守番を頼んで出掛けてしまう。ちょっと変わった人かもしれない……。
しかし、これが縁となって著者は3年にわたって尾畠さんの話を聞き続けることになった。自宅に通い、被災地に同行してボランティアを体験し、一緒に山に登った。折々に尾畠さんが発することばが胸に響いた。今82歳の尾畠さんの生き方を文章と写真で描く一代記。赤いウエア、赤いハチマキ姿の尾畠さんの写真を見ているだけでなんだか元気が出てくる。
「5万5000円の年金だけでも夢の生活だよ」
「ご飯や味噌汁の気持ちを考えたら、ワシ、米一粒、汁一滴、残せないんだわ」
「子どもちゅうのは、親のズルさを見ちょる」
「ワシは無信心、無宗教。自分で自分を信じる」
尾畠さんのことばの背景には壮絶な人生がある。きょうだい7人の極貧生活、飲んだくれの父親、一家を支えた母は41歳のとき栄養失調で死去。小学5年で農家に奉公に出され、まともな教育を受けていない。15歳からは魚屋修業。とび職や長距離トラック運転手をして稼ぎ、29歳で自分の店「魚春」を開業。学歴もないゼロからの出発は、さながら「おしん」の男版だ。
65歳の誕生日に魚春を閉め、ボランティア人生を始めた。苦労が鍛え上げた心身の強さを、困っている人のために惜しみなく使っている。誰も見ていなくても、お天道様は見てる。
いったい「お天道様」とは何か?──
その答えは本書を読まれたい。
(文藝春秋 1815円)