「重要証人 ウイグルの強制収容所を逃れて」サイラグル・サウトバイ、アレクサンドラ・カヴェーリウス著 秋山勝訳

公開日: 更新日:

 中国共産党政府が、少数民族の地、新疆ウイグル自治区で何をしてきたのか。何をしようとしているのか。歴史に逆行するおぞましい所業の数々が、一人の女性の命がけの証言で明るみに出た。

 サイラグル・サウトバイは、1976年に新疆ウイグル自治区で生まれたカザフ人。イスラム教とカザフ族の伝統を重んじて暮らしていた。しかし、中国政府によって故郷は急激に蹂躙されていく。多くの同胞が、開発の名の下にズタズタにされた母なる大地を悼み、静かな涙を流した。

「強く生きろ、サイラグル」。父の言葉に励まされて高等教育を受けたサイラグルは医師となり、その後、幼稚園の園長になった。愛する人と結婚し、2人の子供を授かった。しかし、少数民族への監視の目は、日に日に厳しさを増していく。

 2017年11月。突然連行されたサイラグルは、政府が職業技能教育訓練センターと呼ぶ少数民族の強制収容所で中国語を教えるように指示された。そこは地獄だった。生きる屍のような収容者たちは、手錠と足かせをはめられたままコンクリートの棺桶のような部屋で折り重なるようにして寝る。24時間、カメラが監視している。自己批判と中国共産党への称賛を強要され、宗教も言語も奪い取られる。拷問、レイプ、強制的な薬物投与、囚人の臓器摘出。人間に対する最悪の犯罪が国家の命令で行われていたという。

 5カ月後、いったんは収容所から解放されたものの、身に迫る危険を察知したサイラグルは、隣国カザフスタンへ命がけで脱出する。家族とも再会したが、亡命は認められず、国連の計らいで19年にスウェーデンに政治亡命した。

「ここで行われている残虐な行為を外の世界に伝えるのだ」。固く心に誓ったサイラグルは、いくつもの危険を乗り越えて、世界に向かって発信している。世界は目を覚まし、彼女が抱えている「はらわたが煮え繰り返るような怒り」を共有しなければならない。今、最も読まれるべき衝撃作。

(草思社 2200円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    野呂佳代が出るドラマに《ハズレなし》?「エンジェルフライト」古沢良太脚本は“家康”より“アネゴ”がハマる

  3. 3

    岡田有希子さん衝撃の死から38年…所属事務所社長が語っていた「日記風ノートに刻まれた真相」

  4. 4

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希にまさかの「重症説」…抹消から1カ月音沙汰ナシで飛び交うさまざまな声

  1. 6

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  2. 7

    「鬼」と化しも憎まれない 村井美樹の生真面目なひたむきさ

  3. 8

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 9

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方