現代と共通点多々!?江戸のオンナたちが分かる本

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「図説吉原遊郭のすべて」エディキューブほか編集執筆

 明治維新から150余年。江戸時代は、はるかかなたにも感じられるが、私たち日本人の生活の隅々にその余韻が残っている。今週は意外にも現代と共通点が多い、江戸の女性たちの体温を感じられるような本を紹介する。



 江戸幕府公認の遊郭「吉原」は、四方を堀に囲まれた約2万坪の土地に、最盛期には遊女と関係者約1万人が暮らしていたという。そんな吉原遊郭のすべてを紹介するグラフィックブック。

 当時の遊女は、貧しい家計を助けるため親に売られたり、自ら身売りしたものがほとんど。そのため世間から同情され、親孝行した娘として評価されていたという。

 また太夫や花魁と呼ばれた才色兼備の高級遊女は、当時の女性たちのファッションリーダーとして憧れの存在で、その独自の作法や文化は、江戸の最先端の流行にまで影響を及ぼした。

 遊女たちの一日や、さまざまなルールがある遊び方、そして吉原を支える裏方たちの仕事ぶりなど、その実態を浮世絵や再現したCGで紹介。

 遊女たちが信条にした金になびかず、誇りを捨てない「張り」と呼ばれる心意気に感嘆。極楽と苦界がまじり合った夢の世界に読者を誘う。 (双葉社 1650円)

「江戸庶民のまじない集覧」長友千代治著

 江戸の人々にとって「まじない(呪い)」は「解決困難な恐怖・不安・迷妄から抜け出す方策であり、生き方を積極的に探し求めて考え出された智恵」だった。当時の人々が信じた呪いの数々を、240点以上の図版と共に紹介した百科事典。

 個人の生活体験が地域に広まり、ついには社会的な承認を得て共有され、知的財産になったのが呪いだ。そこには生き抜く力の多様さ、方策創出があり、加えて信念に基づく祈りが基本にある。

 酢にカビが生じない呪いなど食物関係の呪いにはじまり、盗人が入っても何も取ることができなくする呪いや、長居する人を早く帰らせる呪い、公事(主に民事訴訟)沙汰に勝つ符(指定された呪文のような文字を紙に書き作法にならってのむ)、さらに見た夢が善か悪かを教えてくれる夢判じから、時疫(はやり病)の病家に行く時の呪いや、不妊、子育ての呪いまで。

 生活のさまざまな場面に用いられた膨大な呪いを効能別に網羅した大作。 (勉誠出版 6600円)

「江戸衣装図絵奥方と町娘たち」菊地ひと美著

 江戸時代の町方女子は、規定がある武家の女子と異なり、着物の丈や袖の形、色、模様、帯の長さなど流行に大胆に挑戦した。そんな江戸の女性たちの装いの軌跡を追ったビジュアル服飾史。

 江戸初期、武家婦人の晴れ着は絹地が見えなくなるほど刺繍や金銀箔で埋めつくした「地無し」と呼ばれた衣装だった。一方の庶民は、木綿がまだ登場しておらず、樹皮の糸や麻で着物を自ら仕立てていた。初期後半になると、経済力をつけた上層町人の間で「寛文小袖」と呼ばれる自由で大胆な発想の着物が流行。

 伝統や質を重んじる武家婦人の着物が格調高い美しさを放っているのに対し、町方女子は着こなしやコーディネート力で見せた。さらに江戸後期には町人層が中心となり江戸文化が開花。「粋」という美意識のもと、渋みのある洗練された装いが生み出されていく。

 着物、髪形、化粧、小物など江戸女性の装いのチャレンジの軌跡を追う。 (筑摩書房 1045円)

「江戸の女性たちはどうしてましたか?」春画ール著

 江戸時代の春画や性のハウツー本「性典物」の魅力や楽しみ方を発信する著者によるエッセー。

 他人との違いが気になるのは今も昔も一緒。菱川師宣の「床の置物」では、奥女中たちが「ぼぼ(女性器)」の大きさを比べ合っている。また色道指南書「陰陽淫蕩の巻」では、大きすぎるマラ(男性器)を受け入れるために女性が用いるテクニックや、短いマラをボボの奥まで届かせる体位などが説かれる。

 他にも性典物に記された媚薬効果がある線香や男性用マスターベーション性具を自作してみるなど、時に体を張って、江戸時代の性文化を紹介する。

 一方で、こうした春画などの描写から江戸時代は「朗らかで笑いに満ちた性」だったと思われがちだが、決してそうではないと指摘。強姦や差別表現などの笑えないものも描かれると。和合を描くはずの春画でなぜ強姦を扱うのか。春画を題材にジェンダーについても考察するなど、江戸時代の性の実相に迫る。 (晶文社 1980円)

「図説江戸のエンタメ小説本の世界」深光富士男著

 江戸時代、膨大な数の大衆小説が刊行され、女性たちも本を読んだ。黄表紙にも、本問屋の店先で楽しそうに本を手にする奥方や女中たち、こたつで読書にいそしむ女性の姿が描かれている。

 江戸の小説本の挿絵に注目し、選りすぐりの作品を紹介しながら、その奥深い世界を案内してくれるビジュアルガイド。

 まずは滝沢馬琴の代表的な読本「椿説弓張月」。読本は、絵の中に文が入りこむ草双紙に対し、本文の合間に見開きを使って挿絵が差し込まれる。

 悲劇の武将・源為朝を主人公に史実と虚構を織り交ぜた英雄伝説に仕立てた本書の挿絵を担当したのは、あの葛飾北斎だ。北斎の迫力ある挿絵を多数紹介しながら、そのストーリーを追い、見どころ読みどころを解説。

 以後、同じく馬琴の「南総里見八犬伝」や山東京伝の「忠臣水滸伝」などの読本にはじまり合巻、黄表紙、人情本まで、時代の変遷をたどりながら多くの作品を解説。日本人の漫画・アニメ好きの源流がここにある。 (河出書房新社 3080円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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