人気作家から巨匠の遺作まで海外ミステリー本特集

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「嘆きの探偵」バート・スパイサー著、菱山美穂訳

 スパイが暗躍し、ハードボイルドな探偵が事件に切り込んでいく。海外ミステリーの面白さは、サスペンス性の高さとダイナミックな世界観だ。今回は、映画化作品も多い人気作家の作品から巨匠の遺作まで、海外ミステリーの醍醐味(だいごみ)を存分に味わえる5冊を紹介しよう。



 私立探偵カーニー・ワイルドシリーズの最新作。38口径のリボルバーを取り出し、カーニーは巡査の後に続いた。元銀行の出納補佐で、端正という言葉がぴったりの美しい青年、そして20万ドルもの金を盗んだスチュワートを追い詰めたところだった。しかし銃撃戦の末、犯人を取り逃がし、左肩を撃たれて入院を余儀なくされるカーニー。そんな彼のもとにやってきたのは、殺人課警部である友人のグロドニックだ。スチュワートが、ミシシッピ川をクルーズする蒸気船に乗り込むという情報を得たため、犯人を追って船に乗り込んでほしいというのだ。

 そこへやってきたのが、グロドニックの娘でありカーニーが恋人と思っていたジェーンと、カーニーの部下であるマクスウェル。ふたりは何と、結婚の報告にやってきたのだ。失意の中、犯人を追って船に乗り込むカーニー。船上という密室でのスリリングな捜査に、手に汗握ること請け合いだ。

(論創社 3080円)

「陪審員C-2の情事」ジル・シメント著、高見浩訳

 主人公は52歳のカメラマンの女性。名前は「C-2」だ。物語の舞台はフロリダ州で起きた乳児焼死事件の裁判で、主人公は陪審員に選ばれているため、名前を伏せられて番号で呼ばれている。裁判の被告は17歳の少女。死亡した乳児は被告の弟で、おむつにはシンナーがしみ込んでいた形跡があったという。凄惨な事件は世間の注目を浴び、裁判の中立性を保つため陪審員たちはモーテルに隔離される。

 実は本作、単なるリーガルミステリーではない。凄惨な事件の謎を追う裁判と並行して、主人公の禁断の情事が描かれていく。C-2の夫は高齢であり、息の詰まる生活が続いていた。そこにきて、隔離生活という非日常が訪れ、C-2は医学部の教授だという42歳の陪審員「F-17」との情事に溺れていく。

 裁判が進むにつれ、人生最後のアバンチュールから抜け出せなくなっていくC-2。映画化された「眺めのいい部屋売ります」の原作者による大人のミステリーだ。

(小学館 2310円)

「読書セラピスト」ファビオ・スタッシ著 橋本勝雄訳

 教師として採用されなかったヴィンチェ・コルソは、悩んでいる人に読むべき本を薦める読書セラピーの仕事を始める。だが、髪が思い通りにならないと悩む女性にヘミングウェーの遺作を薦めて怒らせてしまうなど、なかなかうまくいかない。

 ある日、階下に住むパロディ夫人が失踪した。階段の踊り場で見かけたことがある。警察は殺されたのではないかとみている。

 たんすで見つかった夫人の日記に自分の死の予告が詳しく書かれていて、夫との会話をすべて記録していた。夫が夫人を脅していたのを見たという証言もある。ヴィンチェは、ここ2年間に夫人が読んだ本のリストから真相を探ろうとする。本屋が選んだ本のリストのうち、夫人が返していない本を探した。ポール・オースターの「オラクル・ナイト」、モーリー・キャラハンの「誠実な妻」……。

 読書セラピストが真相を探り出すビブリオミステリー。

(東京創元社 2310円)


「狙われた楽園」ジョン・グリシャム著 星野真理訳

 法廷を舞台としたリーガルミステリーを数多く生み出し、自身も弁護士の経歴を持つ著者。「ペリカン文書」など映画化作品も数多い。本作は、著者の新境地として全米ベストセラーとなった「『グレート・ギャツビー』を追え」の続編だ。

 ブルース・ケーブルは、カミーノ・アイランドで独立系書店「ベイ・ブックス」を営む名物店主。世間を騒がせた“フィッツジェラルド直筆原稿盗難事件”からはや3年、精力的に店を切り盛りする毎日だ。

 そんなとき、真夏のリゾート島に超巨大ハリケーンが接近する。島には、前回の事件でブルースとロマンスがあった、作家のマーサ・マンも訪れていた。恐ろしい暴風雨に襲われた翌日、島に住む元弁護士でサスペンス小説作家のネルソン・カーの遺体が、彼の自宅の外で発見される。不審に思ったブルースは死の謎を追うのだが……。

 前作同様、“本好き”の心をくすぐる仕掛けがちりばめられている。

(中央公論新社 1980円)


「シルバービュー荘にて」ジョン・ル・カレ著 加賀山卓朗訳

 著者は東西冷戦時代にイギリスの諜報機関で活躍した人物。「寒い国から帰ってきたスパイ」など数多くの作品を発表してきたスパイ小説の巨匠だ。

 物語は、激しい雨の降るロンドンの朝から始まる。2歳の息子を乗せたベビーカーを押す女性の名前はリリー。死にかけの母親に命じられて、スチュアート・プロクターに手紙を届けに来た。

 場面は変わり、同じ日の朝。33歳のジュリアン・ローンズリーが風雨の中をカフェを目指して歩いている。彼はロンドンの金融街で活躍するトレーダーだったが、競争社会に嫌気が差し、今は書店主として生計を立てていた。そんな彼のもとに、ジュリアンの父を知るという初老の男性がやってきて、2人は友情を育んでいく。やがて、プロクターがイギリスの諜報機関の人間であることが明かされ、2つの物語が絡み合っていく。本作は、2020年12月に死去した著者の遺作。スパイ小説ファンなら必読だ。

(早川書房 2750円)


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