音楽がどこかへ通じる扉を開ける ミュージシャンの本特集

公開日: 更新日:

「ぼくが歌う場所」中川五郎著

 音楽は聴覚を通して心に直接働きかける。それが意外なパワーを持っている。まるで「開けゴマ!」の呪文のように、突然どこかへ通じる扉を開けてしまうことだってあるのだ。



 高校2年の時、ピート・シーガーの「We Shall Overcome」を聴いて感動した著者は、自分なりに訳詞をつけて歌っていた。1967年に開かれた第1回フォークキャンプで、翻訳家の真崎義博がボブ・ディランの「ノース・カントリー・ブルース」に「炭鉱町のブルース」というタイトルと日本語の歌詞をつけて歌っているのを聞いた。その曲が頭から離れなくなり、著者は受験生の生活を歌う歌詞をつけて、「受験生のブルース」を作る。コンサートで歌っていると、高石ともやが新しい曲をつけてくれることに。

 だが、高石の「受験生ブルース」のメロディーはあまりに明る過ぎて違和感がある。歌詞の手直しも納得がいかない。受験生の歌ではなく、受験生を外から見ている部外者の歌になっていた。

 フォークソングを歌い続けた歌手がその半生をつづる。

(平凡社 3080円)

「横浜の“ロック”ステーションTVKの挑戦」兼田達矢著

 テレビ局の仕事をしたいと思っていた住友利行は大学卒業後、神奈川県に新しいテレビ局ができると聞き、TVK(テレビ神奈川)に入社。まだ歌謡曲中心の時代だったが、ラジオ関東出身者が「ヤング・インパルス」という番組を作り、フォークのライブの現場を届けようとした。出演者に表現の場を与えようというコンセプトで、レギュラーになったのがRCサクセションやダウン・タウン・ブギウギ・バンドだった。

 住友は宇崎竜童が引き出しの多い人間であることに目を留め、レギュラー出演を求めた。「スモーキン・ブギ」のヒットに続いて「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」が大ヒット。下関出身の住友はTVKの独自性をアピールするために、東京の局にはできないことをやろうと考えた。

 日本のロック史に名を刻むべき人々の軌跡をつづる。

(DU BOOKS 2750円)

「EPICソニーとその時代」スージー鈴木著

 先進的な音楽性により1980年代のミュージックシーンを席巻したレコード会社「EPICソニー」。その記念すべき初の大ヒットは、ばんばひろふみの「SACHIKO」だった。80年1月の「ザ・ベストテン」で最高位2位。ともすればフォーク的な曲の印象をポップなものにしたのは、編曲家大村雅朗だ。

 その後、大村は佐野元春、大沢誉志幸、大江千里、渡辺美里、小室哲哉、岡村靖幸らと組み次々と大ヒットを飛ばし、鮮やかなEPICソニーの歴史をつくっていく。中でも佐野元春の「SOMEDAY」、渡辺美里の「My Revolution」は音楽マーケットのど真ん中にはまった。

 ほかにも「ランナウェイ」(シャネルズ)、「すみれ September Love」(一風堂)など名曲の数々を分析しながら、当時の音楽シーンを振り返る。巻末には佐野元春ロングインタビューも掲載。

(集英社 1100円)

「ジャガー自伝」ジャガー著

 ロック歌手のジャガーは1944年、北千住に生まれた。翌年、東京大空襲に遭い、一家は焼け残った蓄音機のラッパを抱えて千葉の長浦に移る。母はよく洋楽のレコードを聴いていて、ジャガーも米軍のラジオ放送に熱中した。ビートルズに憧れ、レコード屋で働いた後、洋裁の腕を生かして「洋服直し村上」を経営、30もの支店を持つほどに。その傍ら自分の曲をレコード会社に持ち込んだが反応がない。

 ある日、千葉テレビの営業マンがやってきた。店のCMを出さないかというので店のCMより自分のアルバムのCMを出したい、と持ちかけた。テレビで15秒CMを出したかったが、料金が高く諦めていたのだ。ジャガーがロック歌手だと知らなかった営業マンは驚いたが、考えた末に5分番組を毎週やらないかと提案した。

 自ら番組を制作、主演して世に出たミュージシャンの自伝。

(イースト・プレス 1540円)

「K-POP時代を航海するコンサート演出記」キム・サンウク著、キム・ユンジュ画 岡崎暢子訳

 サンウクは高校時代、希望者をオーディションで入れる合唱団に入り、文化祭のプログラムのひとつの歌謡祭出場を目指す。

 商店街に一般人用CD録音スタジオがあるのに気づいて、合唱曲のレコーディングをしようと考えるが、500万ウオンくらいかかる。

 そこで、これから作るCDアルバムを友達に販売し、代金を先に受け取ることに。同級生の2人に1人が買ってくれた。大学に入ったが、公演スタッフ養成アカデミーの開講を知り、休学してアカデミーに。チョウン・コンサートという会社のインターンとしてコンサートに関わる。

 大学卒業後、マスコミの就職試験にすべて落ちたサンウクに、チョウン・コンサートが声をかけてくれた。そして、年間40本ものコンサートをこなす生活が始まった。

 BTSら世界的アーティストの公演を手がけた韓国の演出家の軌跡。

(小学館 2200円)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」