文庫で楽しむ 食と事件とのコラボ小説特集

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「ランチ探偵」水生大海著

 終息の見えないコロナ感染で日々の行動範囲は狭くなりがち。せめて小説の力を借りて、おいしいものを想像の世界で楽しもう。今回は、食に絡んだ推理や事件を描く小説5冊を紹介する。



 阿久津麗子と天野ゆいかは大仏ホームの同期生。コロナ感染の拡大で行動に制約はあるが、2人はせっせとランチ合コンにいそしんでいる。

 ある日の合コンの相手は、老舗百貨店・越善屋に勤める若槻佑人と先輩の三門秀之。スペイン料理店で、いんげん豆の煮込み料理ファバーダ、パエリアなどに舌鼓を打ちながら、推理好きのゆいかは越善屋のSNSに投稿された脅迫について探っていく。館内の大理石の柱に残っているアンモナイトを「取り戻しに行く」と投稿されていたのだ。

 ゆいかはアカウントの<bestsadut>に注目。アナグラムだと気が付き、デザートが運ばれてくる頃には、脅迫者の目星をつけた。新たな出会いを求める麗子と謎を求めるミステリーマニアのゆいかが、合コン相手から持ち込まれる謎に挑む「ランチ探偵」シリーズの第3弾。描かれる羊肉料理、インド料理、中華料理などの描写も読みどころのひとつだ。

(実業之日本社 792円)

「グルメ警部の美食捜査2」斎藤千輪著

 美食家でイケメン御曹司の久留米斗真、通称グルメ警部は警視庁所属。VIPな両親を持つグルメ警部は、周囲の忖度によって、自分が興味を引いた事件だけ捜査する自由が認められていた。そんな彼のお抱え運転手を務めるのが、底なしの胃袋の持ち主・カエデだ。食にまつわる事件ばかり追う警部に同行するカエデもご相伴にあずかっている。

 下北沢の老舗寿司店で久留米が食事をしていた時のこと。顔見知りの常連客の山田がやってきて、相談を持ち掛けた。池尻大橋の住宅街にできた高級寿司店には客がほとんど入っていないのに、つぶれる気配がない。さらに店から客が出てきて「タイ米が最高だった」と呟いたという。早速、久留米はカエデを伴い店を訪ね、たまたま店主が客の一人に「睦月の15日、桜の会」と伝えているのを耳にする。桜の会の当日、久留米とカエデは店に出向き、「現場」を押さえる。果たして「タイ米」とは。話題のグルメ連作ミステリー第2弾。文庫書き下ろし。

(PHP研究所 814円)

「しゃばけごはん」畠中恵著 川津幸子/料理

 日本橋の大店・長崎屋の若だんなこと一太郎には、実は妖の血が流れている。それゆえ長崎屋には妖怪たちが集まり、若だんなの世話をしたり、難事件の解決の手助けをしている。そして、事件が解決した際や、季節の行事などしょっちゅう繰り広げられる妖たちの宴会、病弱な一太郎のための料理の数々が、「しゃばけ」シリーズの楽しみのひとつになっている。そんな楽しい食事場面を抜粋し、レシピ付きで紹介。

 たとえば、守狐が作った「やなり稲荷」。俵型ではなく、あげを長く半分に切って細く巻いてあるのがかっこいい。一太郎が褒めると「狐こそ、あげの一番の料理人です」と守狐は自信満々に答える。

 ほかにも赤色を嫌う疱瘡神が一太郎に勧められ食べた「小豆粥」、病弱な一太郎がペロリと食べきった「雷豆腐」など、江戸の献立を再現する。

(新潮社 781円)

「居酒屋こまりの恋々帖」赤星あかり著

 時は寛政2年。江戸両国橋の酒問屋で、大酒飲み大会が開かれていた。きゃしゃな総髪の浪人・こまりと、やくざ者のヤスの2人が最後まで残ったが、共に酔いつぶれてしまい、賞品の上級酒<天命>は妖盗野槌に奪われてしまう。

 翌日、居酒屋白河屋にこまりの姿があった。実はこまりは離縁したあと江戸に出て白河屋で働いているのだ。そこへ昨日のヤスが姿を現し、「商売の邪魔をした迷惑料を払え」と脅す。翌日もヤスはやってきたが、どうも元気がない。そこへ岡っ引きがやってきてヤスを<うずら泥棒の嫌疑>でしょっ引いていった。

 ヤスが漏らした言葉を聞いていたこまりは、彼が盗ったとは思えず、うずらが盗まれた旗本の拝領屋敷に出向く。そこで会った女の子の話を聞き、ひと肌脱ぐことに……。

 老店主から居酒屋を継いだこまりが、絶世の美女にヘンな色のぼたもち探しを頼まれたり、美酒・高級食材だけを狙う野槌を追ったりと、おいしい食事を提供しながら、謎解きと捕物に挑む文庫書き下ろし居酒屋小説。

(早川書房 880円)

「稲荷町グルメロード2」行成薫著

 25歳の瀧山クリスは、あおば市の稲荷町商店街のアドバイザー。4年契約で総額1億円の報酬で採用されたことで、地元では「1億円男」と揶揄されている。クリスの戦略はグルメで商店街を活性化することだが、新規出店したラーメン店は高級すぎて閑古鳥、讃岐うどん屋も地元の味と異なるとあって、なかなか人が集まらない。クリスは店が抱える問題を解決しようとラーメン屋店主の石垣と話し合うが、プライドの高い石垣は価格設定もやり方も頑として受け入れられずにいた。一方、うどん屋のサブローはクリスの先輩でフードライターの東のアドバイスを受け入れ、ダシやうどんのコシを変更。さらに地元グルメとのコラボ作戦で、成功の気配が見えてくる。

 クリスは奔走するものの、市の「まちづくり振興課」の面々は、非協力的。そしてある日、見知らぬ高齢のロックンローラーが事務所に怒鳴り込んできた……。ゾンビロードといわれた商店街を舞台に、食を通して「本当に大事なもの」を描くシリーズ第2弾。

(角川春樹事務所 792円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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