「チャイルドヘルプと歩んで」廣川まさき著

公開日: 更新日:

 児童虐待の痛ましいニュースが後を絶たない。SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲットには子供への虐待撲滅も含まれており、対策づくりが喫緊の課題となっている。そのヒントが隠されているのが、アメリカの児童虐待に対する先進事例をルポした本書だ。

 虐待は“家庭”という密室で行われるため被害者本人の証言が頼りとなるが、幼い子供が我が身に起きたつらい出来事を正確に話すことは非常に困難だ。その上、福祉職員や警察官、医師など多くの知らない大人に何度も事情を聴かれることでPTSDが悪化したり、記憶が変質して証言の信憑性低下にもつながりかねない。

 そこでアメリカでは「フォレンジック・インタビュー」が行われている。これは、子供の証言の法的効力を確保しながら、できる限り2次トラウマを与えないよう専門職のインタビュアーが行う特殊な面接である。例えば、施設のひとつである「チルドレンズ・アドヴォカシー・センター」には、素早く子供を保護するために警察の部隊が丸ごとひとつ入っており、医療チームも常駐。心理療法士の起用するセラピー犬も飼われている。

 そんな環境下で、特別な資格を持ったインタビュアーが、被害児童の記憶が鮮明なうちに最大限の配慮を持って“一度だけ”面接を行う。その一回で客観性の確保された、司法の場では証拠として認められる証言を引き出すのだという。

 センターを運営する全米最大の民間児童救済機関「チャイルドヘルプ」の取り組みも紹介。機関設立の背景に、戦後日本の戦争孤児の存在があったことなども明かされている。日本にも新しい保護制度や有資格者の整備が急務だ。

(集英社 2530円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」