「チャイルドヘルプと歩んで」廣川まさき著
児童虐待の痛ましいニュースが後を絶たない。SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲットには子供への虐待撲滅も含まれており、対策づくりが喫緊の課題となっている。そのヒントが隠されているのが、アメリカの児童虐待に対する先進事例をルポした本書だ。
虐待は“家庭”という密室で行われるため被害者本人の証言が頼りとなるが、幼い子供が我が身に起きたつらい出来事を正確に話すことは非常に困難だ。その上、福祉職員や警察官、医師など多くの知らない大人に何度も事情を聴かれることでPTSDが悪化したり、記憶が変質して証言の信憑性低下にもつながりかねない。
そこでアメリカでは「フォレンジック・インタビュー」が行われている。これは、子供の証言の法的効力を確保しながら、できる限り2次トラウマを与えないよう専門職のインタビュアーが行う特殊な面接である。例えば、施設のひとつである「チルドレンズ・アドヴォカシー・センター」には、素早く子供を保護するために警察の部隊が丸ごとひとつ入っており、医療チームも常駐。心理療法士の起用するセラピー犬も飼われている。
そんな環境下で、特別な資格を持ったインタビュアーが、被害児童の記憶が鮮明なうちに最大限の配慮を持って“一度だけ”面接を行う。その一回で客観性の確保された、司法の場では証拠として認められる証言を引き出すのだという。
センターを運営する全米最大の民間児童救済機関「チャイルドヘルプ」の取り組みも紹介。機関設立の背景に、戦後日本の戦争孤児の存在があったことなども明かされている。日本にも新しい保護制度や有資格者の整備が急務だ。
(集英社 2530円)