「原発事故最悪のシナリオ」石原大史著

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 政府によるグリーン成長戦略では、原発について「可能な限り依存度を低減」としつつ、東日本大震災以降10基の原子炉が再稼働に至っている。原子力は脱炭素のための確立された手段のひとつという見方もある。

 しかし本書では、関係者100余人への独自取材をもとに、日本の危機管理の実像を追究。11年前に起きた福島原発の事故では東日本壊滅の危機が迫っていたこと、それを収束させる術を誰も持ち合わせていなかったこと、そして今でもその状況に変わりがないという現実を突き付けている。

 2011年3月25日、当時の菅直人首相のもとに「最悪のシナリオ」が提出され、4号機の使用済み燃料プールの燃料1535体が溶けることが想定されていた。そして最悪の場合、住民の移転を認めるべき地域は東京都も含む半径250キロの外側まで発生すると指摘されていた。

 問題なのは、その内容よりも提出された日付だ。震災発生から2週間、第1原発が最も大量の放射性物質をまき散らした3月15日から見ても1週間以上が経過していたのだ。本書では、これらの情報共有もされないまま支援依頼を受けた自衛隊の活動や、撤退つまり現場放棄か否かを迫られた政府の混乱の様子なども明らかにしている。

「アメリカは想定している“最悪の事態”に基づいて判断を下す。しかし日本は緩和策を取り、すべての人の同意を得てから対処していく。だから大胆に進めない」

 事故当時、在日米軍の首席連絡将校を務めていたスティーブ・タウン氏のこの証言が印象的だ。また同じ事故が起きないと言えるのか。そのとき、日本の危機管理は機能するのか。国民一人一人が考えなければならない。

(NHK出版 1870円)

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