「ILLUSTRATION SCENE OF KOREA」平泉康児監修
「ILLUSTRATION SCENE OF KOREA」平泉康児監修
音楽やドラマ、映画などさまざまなジャンルで世界を席巻中の韓国カルチャーだが、イラストレーションにおいても例外ではない。
本書は、韓国出身、在住の注目のイラストレーター35人の作品を集めた作品集。
見る者に問いかけるような視線を投げかける女性がスクリーンの前に横たわる表紙のイラストは、2009年から活動するZIPCYさんが本書のために描き下ろした作品。
作者によると、表紙を飾るのだから、人々の注目を集める強烈な印象のものにしたいと、特にレイアウトや色合い、曲線の美しさなどの要素の組み合わせで、人物の魅力が光るよう意識して描いたという。
結果、女性の強さを見せつけるようなこのポーズになった。
まなざしから魔力を感じさせるよう目の表情にも細部までこだわり、色合いも韓国の伝統的な五方色を意識して用いているそうだ。
五方色は、韓国のお城や遺跡などにもみられるもので、金色を中心に、東が青、西が白、南が赤、北が黒と五方位に対応した色がある。それを意識することで伝統的なイメージを与えるとともに、五方色にはモンドリアン柄を思わせる現代的な側面もあるので、モダンと伝統の要素を混ぜることができるのではないかと考えて彩色したという。
線の質感も独特だ。
同作者による2020年の「落花」と題される作品は、豪華な花と蛇をモチーフにした衣装を身につけた女性が組んだ腕に頬をのせて妖しげな視線をこちらに向ける。
そのざらっとしたタッチは、デジタル全盛のこの時代の作品にはない懐かしさを感じさせる。
ほかにも、ピンクと紫が混ざり合ったネオンカラーで若者たちの日常の一コマを描いたShin Moraeさんの作品は、その線とポップさがアメリカンコミックを彷彿とさせるが、対照的に登場人物たちの表情はシンプルで、それがまた見る者に多くのことを問いかけてくる。
現実と非現実のはざまのようなシーンを絵画のように描くNOMAさん、姉の0と妹の1による姉妹ユニット「0.1」の太い線と無表情の登場人物が印象的なシンプルな作品、服を着た動物の骨格と長い髪の少女が競演するMio Imさんの幻想的な作品、さらに少年少女を主人公に苦痛や憤怒をテーマに描くLee Hongminさんや、恋人たちの忘れえぬひとときを通して愛を描くshinkiruさんなど。独創と鋭い感性に刺激的な作品が並ぶ。
中には、「小林書店」と書かれた店など日本の街角を背景にした作品(Banzisuさん)や、作品の中のモニターに往年の日本のアイドル歌手が映っている作品(RINGさん)などもあり、作者の日本カルチャーへの親近感が伝わってくる作品もある。
韓国イラストレーションの最前線に触れられる刺激的な作品集だ。
(翔泳社 2860円)