「アクアライン」山崎エリナ著
「アクアライン」山崎エリナ著
昨年末に開通から四半世紀を迎えた東京湾アクアラインは、いまや首都圏に欠かせない大切なインフラだ。
「土木のアポロ計画」と呼ばれた東京湾アクアラインの建設プロジェクトは、調査に20年、建設に10年、構想から完成まで実に36年が費やされたという。
その世界最大級の海洋構造物の全容と、施設の安全を守るために日々奮闘する人々の姿を追った写真集。
アクアラインは、川崎の浮島から延びる9.6キロの東京湾アクア「トンネル」と、木更津から4.4キロの東京湾アクア「ブリッジ」に分かれ、両者を海ほたるパーキングエリアがつなぐ。完成時は世界最長の海底道路トンネルでもあった。
木更津側から海の上を大蛇のように優雅な曲線をつくり出し延びる橋梁部は、船舶の航路を確保するため、海ほたるの前でジェットコースターのように一段と高くなり、そのまま海面下へとのみ込まれていく。
海上にそびえる日本一長い橋梁は、そばから眺めるとその巨大さに圧倒され、畏怖さえ覚える。まるで海ほたるという現代の神殿に導く壮大な回廊のようだ。
川崎側の入り口に設置されたトンネル換気施設「浮島換気所」や、海底トンネルを掘り進めるシールドマシンの発進基地として川崎港の沖合5キロに建設された人工島「風の塔」の写真を見ると、その思いはますます強くなる。
なぜなら周囲の景観や視認性を考慮してデザインされた換気所は巨大なピラミッドそのもの(羽田空港の拡張工事に伴う空域制限で現在はピラミッドの頂部が撤去されている)。
そして、周囲に何もない人工島から天空に向かいそびえる高さ90メートルの大塔と同75メートルの小塔が突き出した風の塔は、オベリスクさながら。
ちなみに、海ほたるパーキングエリアには、トンネル掘削に実際に使用されたシールドマシンの「カッタービット」がモニュメント(建設記念碑「カッターフェイス」=写真①)として展示されている。
1日に約5万台もの車両が通行するアクアラインでは、日夜休むことなく、入念に設備の点検や補修工事が行われている。
木更津側の浅瀬では、干潮差を利用して大潮のときに徒歩で橋梁を点検(写真②)。
トンネル部ではコンクリート壁の剥落対策のために繊維シートを貼り付ける補修工事や、高所作業車などを用いた構造物の目視・打音などの定期点検、トンネル火災に備え約3900カ所設置された水噴霧設備(スプリンクラー)は、年に1度すべての動作点検・機能確認が行われる。
眼下やかたわらを車両が通行していく中で進められるそうした工事・点検、さらに安全を守るための道路パトロールの様子をレンズは丹念に追っていく。
非常時に備えた避難通路も念入りに点検。点検を終えて人影が消え、終わりが見えないほど遠くまで一直線に続く避難通路(写真③)は、まるでSF映画のワンシーンのようだ。
クルマで利用しているときはなかなか気づかない、東京湾アクアラインの魅力とそれを陰で支える人々の存在を視覚化したお薦め本。
(グッドブックス 2640円)