「新参者」東野圭吾著
「新参者」東野圭吾著
“地取り”とは、事件発生後に現場周辺で行う聞き込み捜査のことで、通常は本庁と所轄の刑事が2人1組で行うことが多い。本書の主人公、加賀恭一郎は所轄の日本橋署の警部補。相棒は警視庁捜査1課の上杉博史刑事。ところが加賀はほとんど単独行動で、上杉との絡みは最後の第9話までほとんど出てこない。単独行動といい、事件関係者への一見とぼけた問いかけといい、「刑事コロンボ」を彷彿とさせるユニークな刑事だ。
【あらすじ】上川菜穂は人形町に店を構える煎餅屋「あまから」の娘。父と祖母の3人暮らしで、美容師を目指し美容学校に通っている。近所の小伝馬町のマンションで1人暮らしの女性が、首を絞められて死んでいるのが見つかった。部屋は荒らされておらず、顔見知りの犯行の可能性が高いという。
そこへ現れたのが、日本橋署に赴任したばかりの加賀警部補だった。祖母の保険関係を任せている生命保険会社の田倉が昨日店を訪れたのは何時ごろかというのだ。田倉と事件が関係あるのかと心配するが、その後も加賀が何度か店を訪れ、意外な事実が明らかになる。(「第1話」)
第2話は、料亭「まつ矢」が舞台。見習の修平が主人に頼まれて買った人形焼きが、小伝馬町の事件と関係があるらしく、修平は主人をかばおうとするのだが……。その後も加賀は、瀬戸物屋、時計屋、洋菓子屋などを訪れ、殺人事件とは関係ないように思えるそれぞれの秘密を解き明かしていく。そして最後の第9話で、バラバラに見えたそれぞれの話がひとつに結びついていく──。
【読みどころ】人形町を舞台に、それぞれの心情をあぶり出しながら事件の解決へと導いていくストーリーテリングの巧みさは、まさに練達の業。〈石〉
(講談社880円)