「オタク文化とフェミニズム」田中東子著
「オタク文化とフェミニズム」田中東子著
中居問題をめぐってのフジテレビの対応は大きな波紋を呼んだ。本書が刊行されたときにはまだこの問題は取り沙汰されていなかったが、「ジャニーズ問題と私たち」という章で、著者は「性暴力の問題と人権意識についてグローバルスタンダードを共有できていない各メディア企業は、このまま内向きの意識でこの問題を看過してしまうなら、いずれジェンダー不正義に加担するものとして批判されてしまうだろう」と指摘。果たせるかな予想が的中してしまった。
これまでオタクというと主に男性オタクを指すことが多かったが、近年は「推し活」などを筆頭に女性オタクの活動も注目されるようになってきた。そもそもオタク文化は「メインストリームの文化になじめない人たちが閉じられたコミュニティーの中で語り合うためのサブカルチャー」で、女性オタクにとっては「規範的な女性性から逃れるためのある種の逃走線」として大切な空間だった。
ところが、現在のオタク活動、ことに「推し活」はお金・時間・労力をつぎ込むことを当然とし、供給側もそれを織り込んだ上でタレントやコンテンツを生産して、「女性による男性性の過度な消費」という問題が起きている。本書はこの2つの側面からオタク文化とフェミニズムの問題を論じている。
例えば、ファンは推しのために積極的に活動し、タダ同然で自身のお金と時間と労力を宣伝広告に捧げている。
この推し活を労働という点から照らしてみると、推しを応援することで幸福感、興奮、情熱などの情動が生まれることから、これは一種の「情動労働」で、産業側は「情熱のカツアゲ」「やりがい搾取」といった形でファンの労働を搾取するという構造がはらまれている。
そのほか、ジャニーズ問題、ルッキズムとジェンダーの問題なども取り上げ、「推し活」の広範な社会・文化背景を多様な観点から鋭く描いていく。 〈狸〉
(青土社 2420円)