映画「フィールズ・グッド・マン」が暴く世論誘導と大衆支配のメカニズム
韓国系の女性ら8人が殺された米ジョージア州の乱射事件はじめ、全米各地でアジア系住民への犯罪事件が相次いでいる。対中外交で厳しい態度をとる政治の影響といわれているが、こうした時代を象徴するかのような映画「フィールズ・グッド・マン」が日本公開され、話題になっている。そのタイムリーな内容について映画批評家の前田有一氏が語る。
「米国のネット社会では、こうしたヘイトクライムやレイシズムの象徴として、カエルのペペというキャラクターが有名なのですが、じつはこれ、全く無関係な漫画からの盗用。映画は、意図せぬ形で創作物を使われた作者と家族の人生がいかに狂ったか、その苦悩と戦いに密着します。監督のアーサー・ジョーンズ氏は作者の友人ならではの取材力が評価され、サンダンス映画祭の新人賞ほか各国で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞しました」
異様なトランプ&安倍ブームと通底
インディーズ系漫画家のマット・フューリー氏が生み出した“ペペ”。ある時、そのシュールな物言いがネットでバズり、匿名掲示板「4chan」で活動するオルタナ右翼(過激な白人至上主義勢力)の間でも話題に。彼らは自らのシンボルとしてペペを利用し、さまざまなネタ画像を作成・拡散を繰り返した。
さらには、ペペの圧倒的人気に目を付けた大統領候補(当時)のトランプ氏までもが選挙戦に利用。歓喜したオルタナ右翼たちは、自分たちネット民の理想の体現者として彼を祭り上げて大プッシュ。トランプ氏はよもやの当選を果たしてしまう。
「この映画が恐ろしいのは、日本で起きた異様な安倍ブームとうり二つなところです。そもそも『4chan』は、『2ちゃんねる』など日本の匿名掲示板文化に影響を受け作られたもの。日本でも、そこでネット右翼や新興宗教、カルト政治団体などがゆるやかにつながり、目ざとくそれを利用した政治家がカリスマ的な長期政権を樹立しました。同時にビジネス右翼と呼ばれる取り巻き文化人がその権威を補完し、ネット民を手駒にして反対勢力を黙らせていた。同じことがトランプ下の米国で起きていたことが分かる上、その仕組みを輸出したのがどうやら日本だと気づかされるのは衝撃的です。唯一の違いといえば、米国のオルタナ右翼は実際に議事堂にまで突入したことくらい」(前田氏)
SNS時代の世論誘導と大衆支配のメカニズムを、斬新なアプローチで暴き出した異色作。米国の轍を踏まぬよう、日本人も教訓にすべきだろう。