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原田曜平マーケティングアナリスト・信州大学特任教授

1977年、東京都生まれ。マーケティングアナリスト。慶大商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを経て、独立。2003年度JAAA広告賞・新人部門賞受賞。「マイルドヤンキー」「さとり世代」「女子力男子」など若者消費を象徴するキーワードを広めた若者研究の第一人者。「若者わからん!」「Z世代」など著書多数。20年12月から信州大特任教授。

TBS日比麻音子「女子アナという言葉の概念を更新したい」

公開日: 更新日:

日比麻音子さん(TBSアナウンサー)

 今回のゲストはTBSアナウンサーの日比麻音子さん(27)。かつてのような“女子アナ”ブームこそ下火になったが、ジェンダー意識が急速に高まっている今もなお“女子アナ”という言葉の響きには特有のイメージがつきまとう。入社6年目の日比アナに訊く、令和時代のシン・女子アナ論!

  ◇  ◇  ◇

原田「日比さんとは昨年末にお会いした際に“令和の女子アナ論”について盛り上がりました。特に“女子アナ”という言葉や概念について問題意識を持たれていて、なぜ女性アナウンサーと呼ばないのかとおっしゃっていたのが印象的でした。今日はいろいろ伺いたいと思います。そもそもどうしてアナウンサーに?」

日比「普段はインタビューをすることはあっても聞かれる立場になったことはないので不思議な感じです(笑い)。私の家は共働きだったので、学校から帰宅して最初に聞く音はテレビからということが多くて。2011年の東日本大震災のことを思い返すと、当時家族が誰も家に帰ってこられなくて、ひとりでTBSの『Nスタ』を見ていたことも印象に残っています。身近にはいつもテレビがありました。祖母がテレビ好きだったこともあり、テレビ局で働きたいと思うように。アナウンス職を『当たって砕けろ!』の精神で挑戦してみたら、奇跡的に受かって今に至ります」

原田「日比さんは準ミス青山学院大学でした。ミスコンから女子アナになる人は多い」

日比「もともとお化粧やファッションなどにあまり興味がなく、どちらかというと苦手で、自己愛が希薄なタイプといいますか。入学後に、友人たちから『もっとお化粧したらかわいくなるのに』とか言われるようになりましたが、正直言いますと、その言葉を煩わしく感じていました。でも、ミスコンに出たら自分を磨くことの楽しさが理解できるようになるかも、もっと自分を大事にできるかもと思って出場を決めました」

原田「ミスコンに出場して自分が変われたんですね」

■ミスコン出場で「女性らしさも悪くない」

日比「小中高ずっと女子校だったので、女性だから、男性だからといった線引きがない環境で育ったからこそ、『女性らしくあれ』という押しつけには嫌悪感を抱いていました。大学1年生のとき、男子に『荷物を持つよ』と言われて、私は『なんで急に荷物を持たれないといけないんだ!』とイラッとしちゃったり(笑い)。ずっと学級委員長をやっていましたし、長女なので仕切り屋ではあります。よくクラスメートに言われたのは『すごくいい人なんだけど、学級委員の割にあまり勉強はできなくて、シンパシーを感じる』と(笑い)。その延長線上で“女性らしさ”に苦手意識を持っていたのですが、ミスコンに出てみて、女性らしさも悪くない、楽しいじゃないかと新しい感覚を知った気はしました」

原田「経歴を伺うと世間の多くが抱きがちな、いわゆるガーリーというか女子アナっぽさがあまりないような気がします。実際にアナウンサーになってみてイメージと現実は違いましたか?」

いまだに「女子アナって遊んでそう」「合コンばっかりしてるんでしょ」といわれることも…

日比「まったく違いました。アナウンサーは女の子らしさや雰囲気だけでは成り立たない仕事で、言葉の職人なのだと。TBSではアナウンス技術や自分の考え方に加えて、絶え間なく努力を続けることを教えられます。ただ、その一方で、いまだに『女子アナって遊んでそう』『合コンばっかりしてるんでしょ』といわれることもあり、世間のイメージが変わっていない。いろいろなアナウンサーがいるのに、結局“女子アナ”という狭くて小さくて特殊な枠組みにはめ込められてしまうんだと思うと悲しいですし、悔しいときもあります」

原田「同じアナウンサーなのに男性アナウンサーは“男子アナ”とは呼ばれない。でも、女性アナウンサーは“女子アナ”と呼ばれてしまいます。森前会長の発言が社会問題になるなど、世間はジェンダーに厳しくなっている。でも、女子アナに対する固定したイメージはいまだに変わっていない」

日比「自分が女子アナになったら言葉の価値がわかるかなとも思っていましたが、やっぱりマイナスを強く感じる場面もあります。入社したばかりのとき、制作の人から『女子アナなんだから短いスカートをはいたほうがいいよ』と言われたことがあって『平成の終わりに、まだそんなことを言われるんだ……』と。その人は、良かれと思ってアドバイスしてくれたみたいですが残念な気持ちでした。今は『私は長いスカートのほうがいいんです』と言える環境なので徐々に変わってきているとは思います」

■現場は働き方改革が浸透

原田「社会の大きな流れとしてジェンダー意識も高くなってきているし、女性は出産しても会社に残って欲しい、という風潮は確実に出てきてはいますよね」

日比「ただ女性アナウンサー業と結婚出産はマッチングが必ずしも良いとはいえない事情もあるんです。もちろんTBSは産休育休などの制度は整っていますが、アナウンサーは担当番組がある意味『すみか』なので、1年後に戻ってきたらすみかがなくなっていたり、違う住人が入居していたり、街並みが変わっていたりする。半年に1回の改編は避けられないので変化が激しいんですね。そこが一般社員とは違うところです。先輩方のなかには結婚出産を経て戻られて活躍している方もいますし、会社としても復帰はウエルカムなんですけど」

原田「以前、この連載で元フジテレビアナウンサーの内田恭子さんにお話を伺ったのですが、7年で寿退社して、『あの働き方はもうできない』とおっしゃっていました。ある種のランナーズハイみたいな状況だったのかな」

日比「いわゆる売れっ子アナウンサーの定義も最近では変わってきました。昔は何本もレギュラー番組を持って、家にも帰れなくて寝る間を惜しんで働くという状況が売れっ子の証明でした。しかし、今では働き方改革が浸透して、ただたくさんテレビに出ていればいいわけでもなくなった。SNSを始めてわかったことなのですが、『あさチャン!』に出た後に夜の特番に出ていると、『なんでこんなに働いているんですか』と視聴者から言われることもあります」

変わるテレビと視聴者の距離感

 日本社会では今も変わらない“女子アナ”に対する特有のイメージ。対談後半では令和時代のシン・女子アナ像について。

 ◇  ◇  ◇

原田「マーケティングをなりわいとしている僕からすると、テレビ局はこれまでと違った新しい形で『女性アナ』を売り出していくべき時代になっているように思います。若くて可愛いというだけでは既視感もあるし、これだけジェンダー問題が厳しくなっているので受け入れられにくくなる。女性芸人限定の漫才コンテスト『THE W』のことを女性しか出られないから逆男女差別だ、という人があまりおらず、番組が高視聴率をとっているように、新しい見え方をつくっていかないといけないと思います」

日比「たしかに」

原田「これからは中年の女性アナウンサーやママアナウンサーの役割がもっと重要になってくると僕は考えます。女性アナウンサーはママになって退社したり裏方に回るのではなく、もっと意識的にママであることを打ち出していった方がウケる時代になる。厳密な意味でのジェンダー論からすると違和感を抱く人もいるかもしれませんが、マーケティング的観点からは逆の意味でいやらしいくらい新しい女性像を打ち出して使っちゃえばいいのにとも思います」

日比「それは新しい視点ですね。たしかに『女子アナ』という枠にとらわれると『女子アナ』というタグをいや応なしにつけられているようで息苦しくなる時があります。でも、『女子アナっぽさ』を売り出すということは、もっと自分の個性を生かすことだと考えると発想が前向きです」

原田「そうすると、テレビ朝日の弘中(綾香)さんのような人気アナが出てくるんですね」

日比「今、いわゆる人気アナとして活躍されている方々はみんな、個性があるうえで共感が生まれて、結果として女子アナだから面白いと思うんです。個性を生かせば戦略的に女子アナというハッシュタグを自分で使えるし、利益につながっていく。最近はアニメに詳しかったり、ゲームが得意だったり、アイドルが好きだったり、パーソナリティーのほうがフォーカスされるアナウンサーも多いですよね。それが視聴者からの信頼にもつながっているのかなという実感はあります」

原田「テレビと視聴者の距離感は令和になってどんどん変わっています。テレビは電源をつけたらタダで見られます。ネットフリックスやアマゾンプライムなど、自分からわざわざ選んでお金を払って見たいコンテンツを選べる時代に、一方的にCMもあり、早回しもできない、巻き戻しもできないなど、テレビは見ているほうのストレスが多い媒体です。それでも見てもらうためには、何が必要だと思いますか」

日比「テレビにとって今まさに勝負の時だと感じています。そんな中で局アナとして、友達のように身近で親しみのある存在になるべきなのかなと。だからこそ、いわゆる今までの『女子アナ』的なキラキラした印象が強すぎると遠くに感じられて嫌だなぁと。これまでの人気アナというとクラスのマドンナ的な遠い存在でしたが、今は気さくで共感できる、クラスにいる隣の席の女の子のようなアナウンサーのほうが、今のテレビの距離感として合っているのかなと」

売れっ子=幸せ?

原田「人気アナのランキングとか見ても売れっ子の基準も曖昧ですからね」

日比「ただ売れっ子になることがイコール幸せなのかどうか。『自分ならではの幸せを見つけなきゃね』という話をよく後輩とは話しています。局アナは会社員であると同時に人気度や認知度など、いろいろなことに縛られているので会社や視聴者など他人の価値観や幸せを背負いがち。それだけに従って、こだわっていると今の時代では生きていけないので、難しいところです」

原田「そう思うと、先輩アナウンサーの田中みな実さんはすごい人ですよね」

日比「今までの先輩方を見ていて、すごいなと思うのは、局アナ時代に“あざとい”“ぶりっ子”というキャラをつくることで、アナウンサーである自分と本当の自分の部屋をすみ分けていたのかな、と思うところです。実際にどうだったかはわかりませんが、恐らく仕事ではキャラを演じることで、本当の自分を守っていたのではないかと。普通の会社員ならそこまでの発想に至らないし、できないことなのでプロフェッショナルだな、と思っています」

原田「会社を辞めてから大ブレークしました」

日比「お辞めになってから、さらに局アナ時代のイメージを進化させて、新しい引き出しを見いだしたのもすごい。ストイックな方だと、仕事をすればするほど自分がすり減ってしまうだろうから、自分で自分を守らなければ、どんどん自らを溶かしてしまったんだろうなとも思うんです」

原田「このご時世、嘘や偽りは一番叩かれてしまいます。だから嘘をつかずにキャラをつくるって難しい技術ですよね」

日比「そうなんです。視聴者に楽しんでほしい、番組に貢献したいと思うと、ただ自分を無防備にさらけ出せばいいというマインドになってしまって。実際にさらけ出しすぎるとひかれてしまうこともあるし、自分が傷つくこともあります。アナウンサーとして上手に楽しませられる人が今の売れっ子なんだろうなと思います」

原田「日比さんご自身の今後のキャリアについてはいかがですか」

■「『女子アナ』という言葉が嫌い」

日比「今年で入社6年目なのですが、TBSのアナウンサーだと認識されたいと思ったのが最初の3年、自分の名前や声を覚えてもらいたいと思ったのが2年で、丸5年が経ちました。次の目標は『局アナとして自分自身が納得できる幸せを達成すること』です。後輩たちへの道を示してあげたい気持ちも出てきましたし、私自身が世間から認知されたいというよりは、TBSのアナウンサーとして、ひとりの女性として、視聴者に信頼してもらいたい。そのためにはどんな道があるのか模索中です。今でもやはり『女子アナ』という言葉が嫌いなので、女子アナという言葉の概念を更新したいという気持ちはずっと持ち続けています。そのためにも、きちんとした女子アナになろうとは思っています」

原田「『女子アナをぶっ壊す』ですね!(笑い)。個性豊かなアナウンサーが出てくる中で自分のハッシュタグは今後どうしていきましょう」

■趣味はお酒

日比「それも日々考えていて、本当は『趣味はお酒です』と言いたいのですが、それも“女子アナ”という言葉に毎回邪魔をされているなと」

原田「お酒は何が好きですか?」

日比「親友がビール、憧れは日本酒みたいな(笑い)。ちょうどTBSの公式プロフィルの趣味を『ビール』に変えてもらったところです。ちゃんとカルチャーとしてお酒が好きだということが世間から認められたら、ひとつ『女子アナ』の枠組みをぶっ壊したことになるかなと思います(笑い)」=おわり

(構成=高田晶子)

▽日比麻音子(ひび・まおこ)1993年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、2016年にTBS入社。「Nスタ」「ひるおび!」など情報報道番組を中心に担当。現在は「あさチャン!」(月~金)、「オオカミ少年」「CDTVライブ!ライブ!(中継担当)」の他、ラジオ「アフター6ジャンクション(水曜パートナー)」に出演中。

▽原田曜平(はらだ・ようへい) 1977年、東京生まれ。慶大卒業後、博報堂に入社。博報堂生活総合研究所などを経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年からマーケティングアナリストとして活動。近著に「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?~」(光文社新書)。「新・週刊フジテレビ批評」(フジテレビ系)、「ひるおび!」(TBS系)、「バンキシャ」(日本テレビ系)などテレビ出演多数。信州大学特任教授。

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