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伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

映画界・バリアフリーへの真剣な取り組み…「クライ・マッチョ」「コーダ あいのうた」など公開続々

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 今年、新たに誕生した映画祭にゲストとして登壇した時のことです。「みなとシネマフェスタ」といって東京都港区で映画祭を楽しもうと生まれたイベントで、親子で一緒に、あるいは障がいのある方も安心して鑑賞できるような、バリアフリー日本語字幕や音声ガイド付き作品の上映を行なうものでした。

 私が登壇した大九明子監督との『私をくいとめて』のアフタートークでは、手話通訳の方が共にステージに立って訳してくださり、UDトークによるリアルタイム字幕をスクリーンに投影するという細やかな対応もなされました。来場客は補助犬を連れて来ることができ、車椅子での観覧席も設置、そして0歳児を連れての鑑賞も可能という、まさにバリアフリーな上映会でした。

 そんな素晴らしい映画祭で上映された一本、『私をくいとめて』のバリアフリー日本語字幕と日本語音声ガイドは、東京国際映画祭「TOKYO プレミア2020」部門で観客賞を受賞した際の賞金を使って制作したと、大九監督は話していました。

■洋画から見る世界的なバリアフリー意識の高まり

 今年から来年にかけて上映される洋画の中にも、バリアフリーな社会を目指した作品が多く製作されていることに気付かされます。まず、アカデミー賞作品賞含む6部門ノミネート、編集賞と音響賞を受賞した『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』は、突如、聴力が急激に低下し始めたドラマーが恋人との関係や環境の変化で自暴自棄になり、聴覚障がい者自助グループと出会ったことから新たな生き方を見出そうとする物語です。

 劇場公開もされ、配信でも見られますが、助演男優賞にノミネートされたポール・レイシーは聴覚障がいの両親の元に生まれ、手話に長けた俳優でもあり、豊かな表情と手話の演技で見る者を惹きつけました。

 さらに本年度アカデミー賞、作品賞、監督賞、主演女優賞を『ノマドランド』で受賞したクロエ・ジャオ監督によるマーベル映画『エターナルズ』では、人類を見守って来た10人の守護者エターナルズを演じた俳優陣はバラエティーに富んだ国籍です。そのうちのひとり、ローレン・リドロフは聴覚障がいを持っているので手話を用いて会話をします。

 同じマーベル作品となるディズニープラスで配信中のオリジナルドラマ『ホークアイ』では、ホークアイ自身が補聴器を着けており、息子と手話でやりとりをしているシーンが映し出されました。

 特にディズニーなどの世界的シェアを持つ大手企業は、子どもが見られるコンテンツ作りも心がけているので、多様性を意識して物語に登場させることで、自分と違う外見や性的指向、ハンディー状況下の人々に対して「偏見」を持たないような知育を行っているのです。

■クリント・イーストウッド最新作では手話

 しかしその感覚は、影響力を持つ俳優も同じように持ち合わせていて、クリント・イーストウッドが監督、主演、製作を務める最新作『クライ・マッチョ』(1月14日公開)にも反映されています。

 本作は、老いた元ロデオスターが恩人に頼まれてメキシコで暮らす少年をテキサスへ届けるというロードムービー。物語には、旅の途中で少年が「自分はメキシコ人に見えるか? 白人に見えるか?」と問うシーンや、旅先で出会った少女が聴覚障がいを持ち、イーストウッド演じる男が手話で会話をする姿もあるのです。

サンダンス映画祭4冠受賞の話題作も

 来年には家族の中でたったひとり健聴者である少女の感情と、未来を切り開こうとする際にぶつかる愛という大きな壁を綴った『コーダ あいのうた』(1月21日)も公開されます。インディペンデント映画を対象とし毎年、秀作が発掘されるサンダンス映画祭でグランプリ、観客賞、監督賞、アンサンブルキャスト賞という史上最多の4冠に輝いた話題作。さらにゴールデン・グローブ賞にも主要2部門(作品賞/助演男優賞)にノミネートされた一作です。エミリア・ジョーンズ演じる主人公の美しい歌声を聴いたことがない家族を演じたのは、実際に耳が聞こえない俳優たちをキャスティングするこだわりようです。

 だからこそ俳優としての素晴らしい演技力と内面から湧き上がる表現力で、彼らから見えている世界や感情を少しだけでも知ることができた気がします。

■バリアフリー社会実現のために、まずできることを

 バリアフリーとは空間だけでなく、それぞれの人の心のバリアを無くすことであり、視覚や聴覚に障がいを持つ人も、ベビーカーを押す人も、車椅子に乗る人も、老人も、ヘルプマークをつけている人も、誰もが生活しやすく楽しめる社会作り。それには役に適した障がいを抱える俳優を起用するという雇用以外にも、手話を学ぶ人が増えることでコミュニケーションが取りやすくなるという具体案もあれば、意識的にエレベーターを使わないことや席を譲るだけでも、バリアフリーの空間を私たち自身が生み出せるのではないでしょうか。

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