「三十郎大活劇」くしくも今回の演出作品は混迷の時代とリンクしてしまった
なにもそのために企画したわけではないが、演劇には時折このような偶然が起こる。たくまずして芝居が時代とリンクしてしまうのだ。
演出家として私の信条は舞台上のどの役者にも光を当てることだ。ミュージカル「ファンタスティックス」の中に「小さい役というのはあっても、小さい役者というものはいない」というセリフがある。たとえセリフが少なかろうが、役者には必ずキラリと光る瞬間がある。それは鏡のようなもので、こちらが光を当てなければ光り輝かない。主役だけにライトが当たり続ける芝居は私の本意ではない。いや、全ての役者が光った時、その中でこそ主役が燦然と輝くのである。
今回も手下の役で出てくれている劇団SETの4人は、歌って踊れてアクションのできる、まことに頼り甲斐のある実力者なのだが、そのうえにスタッフのやるべき小道具の動かしなんかもお願いしている。役者にそれをやらせるのに反対の演出家も大勢いるが、お願いせざるを得ない場面も多々ある。嫌な顔ひとつぜず応じてくれる彼らには頭が下がる。だから他の役者もスタッフも彼らに感謝し敬意を示す。こういう座組になった時、芝居は成功する。
この素晴らしい役者さんたちに、私は光を当てなくてはならない。まあSETの一人、西海くんは、スキンヘッドなので自らも十分輝いているのだが。
この芝居はまさに今を描いている。どうか劇場に足をお運びください。なによりも役者さんが皆さんとても魅力的です。