皇統優先と男系男子最優先、護憲と改憲…上皇さまと安倍元首相は基本的な部分が大きくズレていた

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 上皇さまは、なぜ安倍元首相とそりが合わなかったのだろう。推測してみたい。

 安倍氏は、皇位継承は男系男子でなければならないというのが持論だ。自ら「男系継承が126代にわたり続いてきた。歴史の重みを考慮し、伝統を守り抜かなければならない」(「文芸春秋」2022年2月号)と語っている。

 この論でいけば、男系男子が最優先なのだから、たとえ秋篠宮家の悠仁さまの世代で男系の皇統が絶えたとしても、旧宮家から格好の男子を選んで皇位につかせれば問題はないとなる。

 が、そこには国民からの視点はまったくない。

 一方の上皇さまは、国民感情を考慮すれば、現在の皇統のまま皇位を継いでいきたいというお考えだといわれる。旧宮家が皇籍を離れてから75年以上も経つ。そんな元皇族の子孫が再び皇籍を得て皇位についたという例は過去にない。それも昭和天皇の系統ではなく、何百年も前に枝分かれした系統なのだから、国民の納得が得られないだろう。

 これは、象徴天皇像をどう描くかという点ではまったく違っていることを示している。それは日本国憲法への向き合い方にもあらわれていた。

 上皇さまは天皇に即位されたとき、即位礼正殿の儀で「日本国憲法を順守し、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓い」と述べられた。これは今上天皇が即位された時も同じだ。歴代の天皇は憲法を守ることを国民に約束してきたのである。

 おそらく憲法が定めた象徴天皇像は、「天皇の長い歴史で見た場合、伝統的な天皇のあり方に沿うものだと思っています」(2009年)と述べられたように、「守るべき大切なもの」だという考え方なのだろう。かつて美智子上皇后さまが、明治初期に農民や市民によって書かれた「五日市憲法草案」を「世界でも珍しい文化遺産」と評価したのは、現在の憲法に近いリベラルな草案だったからだ。

 つまり、現在の憲法は敗戦によってGHQの影響下で作られたことは確かだが、もともと同じような発想は日本人の中にもあったということを伝えたかったのかもしれない。

 一方の安倍元首相は「連合国軍総司令部の憲法も国際法も全くの素人の人たちが、たった8日間でつくり上げた代物」であって、押し付けられた憲法は改正すべきであるという考え方だ。亡くなる5日前にも憲法改正の必要性を訴えていた。このあたりはそりが合わないというよりも、上皇さまとは水と油のような関係といっていいだろう。

 ギクシャクするのは当然で、それが露骨にあらわれたのが、上皇さまの「生前退位の意向」を伝えた2016年7月13日のNHKニュースだった。この時、当時の安倍首相はもちろん、官邸の誰もが驚いた。寝耳に水だったからである。

 上皇さまはこの数年前から生前退位の要望を宮内庁に伝えていたが、宮内庁も消極的で、官邸も公務を減らせば事足りると安易に考え、そのご意向は棚上げにしていたという。これではラチがあかないと思ったのか、上皇さまサイドが官邸や宮内庁を飛び越えて国民に直接訴える方法を選んだというわけだ。

 官邸側には、「天皇は祈っているだけでよい」などといった意見があったといわれる。これに対し、上皇さまは健康でなければ国民と共に歩む天皇は務まらないというお考えと思われる。天皇のイメージがまったく違っているのである。おそらく官邸側には、象徴天皇像はどうあるべきかという基本的な理解がなかったのだろう。それが大きなズレを生んだともいえる。

 安倍元首相が亡くなった今、ではこのズレを修復できるのかというと、そう簡単ではなさそうだ。 (つづく)


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