著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

2023年「秀作ドラマ」トップ5を総括…第5位「何曜日に生まれたの」から1位のNHKドラマまで

公開日: 更新日:

「日曜の夜ぐらいは…」の3人が切なくいとおしい

【第3位「日曜の夜ぐらいは…」】
 (ABCテレビ・テレビ朝日系、4月30日~7月2日放送)


 一見、どこにでもいそうな女性たちの物語である。足の不自由な母(和久井映見)を支えながら働く岸田サチ(清野菜名)。地方在住の樋口若葉(生見愛瑠)は祖母(宮本信子)と同じ工場に勤務。そして、野田翔子(岸井ゆきの)は1人暮らしのタクシー運転手だ。

 それぞれの鬱屈を抱えて生きる彼女たちが、ラジオのリスナー限定バスツアーで知り合う。その時3人で買った宝くじが当たり、3000万円を得たことで事態が動き出す。結局、共同出資でカフェを開くことになった。

 サチに金の無心をする父親(尾美としのり)や、若葉の有り金を持ち去る母親(矢田亜希子)を振り切り、翔子の口癖である「つまんねえ人生」を変えることはできるのか。

 生きることに不器用で、幸福になることを恐れているような3人が何とも切なくいとおしい。等身大の女性の微妙な感情を、脚本の岡田恵和が繊細にすくい上げていく。清野たちのリアルな演技も見どころだった。

【第2位「ブラッシュアップライフ」】
 (日本テレビ系、1月8日~3月12日放送)


 主人公は地方の市役所に勤務する近藤麻美(安藤サクラ)だ。仲のいい幼なじみ(夏帆木南晴夏)もいて、何の不満もなく暮らしていた。

 ところがある日、交通事故で死亡してしまう。気がつくと「死後案内所」にいた。受付係(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられ、抵抗した麻美は「今世をやり直す」ことを選ぶ。ただし前よりも「徳を積む」必要があった。

 麻美は再度の誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始める。周囲に悟られることなく人生に修正を施すため、勝手な“善行”に励む様子が何ともおかしい。しかも、このやり直しが何度も続くのだ。

 日常的「あるある」満載の脚本はバカリズム。シリアスなのにユーモラスな言葉の連射と軽快なテンポが心地よかった。人生のやり直しを通じて「生きること」の意味を探る秀作であり、第39回ATP賞グランプリなどを受賞した。

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