母親を亡くした息子が怒りをあらわに…重要性を痛感したACP
そしてそれから2カ月後の年の暮れ。徐々に食事が細くなり、お母さまは静かに旅立たれていかれました。
残された息子さんもさぞかし私たちと思いを一つにして、全力投球でやり切ったものと思っていたのですが、突然、息子さんが私たちに怒りをぶつけてこられたのです。
「今まで我慢してきた。大丈夫、様子を見ようと言われるままにしてきた。どうせ死んでしまう患者は、一生懸命診ないと思っていたら、案の定メールの返信も短くなってきていたし。もうどうでもいいのか!」
思いがけない言葉に戸惑うばかりです。
あの時もう少し早い時期から、悪い知らせに関して明確に息子さんと情報を共有し、いざそういう時が来たらどのようにすればいいか、どんな気持ちか、事前にお話しするべきだったと反省しました。
そして、患者自らが望む療養や看取りのあり方など、生前の意思表明を家族と一緒に事前に明確にしておく人生会議(ACP)を作成することも有効だったのではと……。
このACPはまだまだ一般に浸透しているとはいえません。この意思表明もご家族の覚悟を促すきっかけになり、看取った後のショックからくる怒りや、不安を少しでも軽減できるのではと考えています。
いずれにしても患者さんとご家族の体だけでなく、心も健やかなるために、より一層、邁進することがこれからの在宅医療には求められるのではないでしょうか。