「いま死ぬわけにはいかない」小さな子を持つ余命半年の患者に言われ…
私が「在宅医療」による訪問診療を志すようになったきっかけは、かれこれ10年ほど前、ある病院に循環器内科医として勤務していた頃に、入院する患者さんは、どうして治療も検査もない時も寝ているだけなのに入院しているのかという素朴な疑問を持ったことに始まります。
その当時の私は、循環器内科医として何事も極めたいと考え、日々邁進していました。心臓カテーテル治療とカテーテル室の運営、冠動脈CT、心臓心筋MRI、各医学検査、そのほかにもレセプト(保険診療に基づく医療報酬の明細書)の対策委員会などで、忙殺される毎日でした。
そんな中で浮かんだ素朴な疑問は、私の中で次第に大きくなっていきました。そしてそこから、患者さんが私たちの医療を受けた時にいかに「良かった、楽になった」と思ってもらえるのか、またはどういう部分に不満があるのかといった視点を持つようになっていきました。
すると院内で回診していると、入院したくない、早く退院したい、こんな診療なら家でもできるんじゃないかという不満を口にする患者さんが少なくないことにも気付くようになるのです。