「皿を洗って」よりも「皿を4枚洗って」の方が相手をやる気にさせる
もしもあなたが、友人から「750円を貸してほしい」と頼まれたら、どうしますか? 貸してもいいという人は、おそらく中途半端な750円を貸すよりも、「1000円を貸すから、後で1000円を返して」と伝えるのではないでしょうか?
心理学の世界には、他者にお願いを聞いてもらう「ピークテクニック」という方法があります。カリフォルニア大が、ホームレスの方に協力をお願いし、次のような実験(1994年)を行いました。
ホームレスは、ひたすら通行人に「小銭をくれませんか?」と声をかけるのですが、その際、お願いの仕方を3つに分けたそうです。
「①小銭をくれませんか?」「②25セントくれませんか?」「③37セントくれませんか?」──。
すると、①の成功率は44%、②の成功率は64%、③の成功率はなんと75%(!!)という結果が明らかになりました。なぜ③が最も成功率が高かったのか? それは、37セントという中途半端な額を提示することで、「中途半端だな、それなら……」と通行人が25セントや50セントといった硬貨を与える機会が増したからだといいます。
冒頭で説明したように、中途半端な額を提示されると、人は違和感を覚え印象に残りやすくなります。中途半端な数字というのは、考えようによってはとても具体性を持ちますから、よりリアルに感じさせる力があるのでしょう。
実際問題として、アメリカのスーパーマーケットなどでは、40ドルではなく39ドルといったような「9」で終わる価格帯が目立ち、こうした価格を「チャームプライス」と呼んでいます。
また、言語学の世界には、ある特徴を積極的に示す「有標(性)」という用語があります。たとえば、テレビショッピングなどで、「今なら○○を付属します!」とか、「お時間限定で2万5000円のところを1万9800円!」なんて言葉をよく耳にすると思います。文法や語彙などにおいて、ある特徴を積極的に表すことで、私たちはより関心を向けてしまう傾向があるのです。
そもそも、先のピークテクニックのピーク(pique)とは、「好奇心や興味をそそる」という意味を含みます。心に引っかかってしまう数字や文言は、相手に「何か意味や特別感がある」と勝手に感じ取らせ、結果、有効的なケースをつくり出してしまうのです。
こうしたテクニックを活用できるシーンは少なくありません。
一例を挙げれば、まったく家事をしてくれない夫に対して、「ごめん、ちょっとお皿を4枚だけ洗ってくれない?」なんて頼めば、成功率がアップするかもしれません。「食器を洗ってくれない?」よりも、4枚という中途半端な数字を提示することで、夫も「なんで4枚なんだ!?」と関心を抱く可能性はグッと高まります。
腰さえ上がれば、やる気のスイッチが入りますから、4枚だったはずが全部洗ってくれる……なんて可能性も。
ピークテクニックは、人間の関心や興味を意図的に高めることにもつながり、相手の心のフックになります。ぜひ覚えておいてください。
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