石原藤樹
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石原藤樹「北品川藤クリニック」院長

信州大学医学部医学科大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。

糖尿病治療を激変させた新たな薬「SGLT2阻害薬」の正体とは? 医師が解説

公開日: 更新日:

GLP1との比較

 SGLT2阻害薬のライバルは、言わずと知れたGLP1(GLP-1受容体作動薬)です。

 SGLT2阻害薬の報告より少し後になりますが、GLP1も同じように動脈硬化に関わる病気のリスクを下げ、健康寿命を延ばすような効果が報告されています。

 それでは実際にどちらの薬がより優れているのでしょうか?

 今のところ最も新しい比較データと言っていい、23年のブリティッシュ・メディカル・ジャーナル誌に掲載されたメタ解析(それまでの研究結果をまとめて分析する研究法)の論文では、SGLT2阻害薬もGLP1も、どちらも12%総死亡のリスクを低下させていました。

 つまり、その効果は同じという結果です。

 22年に発表された65歳以上を対象とした別の比較データでは、やはり動脈硬化性の病気の予防効果には、両者で差がなく、心不全に伴う入院リスクについては、34%勝るという結果が得られていました。

 健康寿命への効果は同じで、心不全予防にはSGLT2阻害薬というのが、今分かっていることなのです。

■問題はないのか?

 このように良いことずくめのSGLT2阻害薬ですが、幾つか問題も残っています。

 尿に糖が多く出ることで、膀胱炎などの感染症は起こりやすくなります。そのため、感染対策には注意が必要です。

 カナグリフロジンというSGLT2阻害薬の臨床試験で、糖尿病の血行障害に伴う下肢切断のリスクが高まるという報告があり、その後の解析結果では、全体としては問題はなかったものの、動脈硬化の進行している高齢者では、やはりそのリスクは増加する可能性が示されました。

 従って、下肢の血行が低下しているような患者さんが使用する際には、慎重な検討が必要です。

 しかし、それ以外は特に安全性に関する不安もなく、安全に使用可能な飲み薬として、その評価は日々高まっていると言っていいのです。

 私はすぐに新薬には飛びつかない方針なので、クリニックで本格的に使い始めたのは16年になってからですが、これまでのべ700人ほどの患者さんに使用し、おおむね良好な治療効果が見られています。

 処方の対象としては2型糖尿病の患者さんで、足の血流が悪い人や、膀胱炎を繰り返しているような人には処方をしていません。その範囲でいうと、尿路感染で困ったということはほとんどありませんし、安全に使用が継続できています。ただ、中には尿の回数が多くなったという訴えで、使用が困難となった方はいます。

 ひとつ事例をご紹介します。事例はEさん。40代の男性で、健康診断の空腹時血糖が252㎎/デシリットルと高く、糖尿病のコントロールの指標であるHbA1cは11.2%と上昇していました。

 普通に考えるとインスリン注射が必要と思われるレベルですが、暴飲暴食、お酒も多いなど、かなり乱れた生活をされていたので、まず生活改善を指示し、薬はSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン10ミリグラムとメトホルミン500ミリグラムで開始しました。

 すると血糖値は2週間で147㎎/デシリットルまで低下し、HbA1cは1カ月後には7.8%、2カ月後には6.5%と良好なコントロール状態となり、その後1年を経過した時点でも良好な状態は持続しています。当初はメトホルミンと併用でしたが、3カ月目からはエンパグリフロジン単剤でも、良好なコントロールは継続されているのです。

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