もし真冬に大地震が発生したら…“凍死リスク”から命を守る「防寒対策」を専門家が指南

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 ショッキングな数字が並んだ。内閣府が21日に公表した北海道から東北にかけて日本海溝を震源とする大地震の被害想定で、死者数は最悪の場合、7道県で19万9000人に上るという。東日本大震災は寒さが残る3月で、阪神・淡路大震災は真冬の1月に発生した。どんなエリアであれ、冬の地震避難では、寒さの備えが欠かせない。

 ◇  ◇  ◇

 今回の対象は、東北から北海道・日高沖にのびる日本海溝と、十勝沖から千島列島に連なる千島海溝での地震。日本海溝でM9.1、千島海溝でM9.3と、東日本大震災のM9.0を上回る規模だ。内閣府の有識者検討会は昨年4月、それぞれの地震による津波や浸水域を推計。それをベースにまとめたのが、今回の被害想定だ。

 北海道えりも町や青森県八戸市、岩手県宮古市などでは20メートルを超える津波を想定。その発生時間帯を「冬の深夜」「冬の夕方」「夏の昼間」に分けてシミュレーションしていて、地震や津波そのものの被害だけでなく寒さの影響が加わる「冬の深夜」の被害を最も深刻としている。

 北海道や東北は寒冷地で寒さが厳しい。高台に避難しても、衣服が濡れたまま屋外にいると、低体温症の恐れがある。避難所でも、防寒具がないとつらい。そこで、日本海溝モデルでは、凍死リスクのある低体温症要対処者を約4万2000人、千島海溝モデルでは同約2万2000人と推計する。では、そんな事態を免れるためには、寒さ対策はどんなことを心がければいいか。災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏に聞いた。

「真冬は、関東や関西の都市部でも気温が氷点下に下がることがあり、地震などでの避難時は防寒対策が不可欠。その意味でいうと、今回の内閣府の被害想定は、北海道や東北を想定したものですが、その中のカギとなる低体温症のリスクは、冬の日本列島では広く当てはまることになります。避難所では、防寒具の備蓄が不十分なケースも珍しくありません。それがあるのとないのとでは、命に直結する恐れがあるのです」

 なるほど、東日本大震災のときの最低気温は、岩手県普代がマイナス5.6度で、石巻がマイナス1.4度、仙台でもマイナス1.1度と沿岸部で氷点下が目立つ。その日の東京の最低気温は2.9度だが、2015年の同じ日はマイナス0.4度。阪神・淡路大震災が起きた1995年1月17日の神戸の最低気温は1.4度ながら、翌18日はマイナス0.5度に下がっている。関東や関西でも、3月くらいまでは寒さ対策が欠かせないことが分かる。

 そこで、具体的な寒さ対策を和田氏に聞いた。

「まず床からの冷えをブロックする対策がひとつ。避難所によっては、冷えを抑えるための簡易段ボールベッドを備えるケースもありますが、それがないと寒くて休めない。そこで、銀マットとエアマットです」

床が底冷え。室温15度でも寝付けない

 今回の発表に先駆けて北海道北斗市の体育館では、1泊2日で厳冬期の避難体験が行われた。外はマイナス8.3度だが、室内は石油ストーブなどで15度前後に温められていた。折り畳みベッドには脚があり、床に雑魚寝状態ではなかったが参加者の一人はセーターやフリースなどを重ね着していても、「なかなか寝つけなかった」という。床の冷えはバカにできない。

 銀マットもエアマットも、車中泊時にはフルフラットで寝るためにも役立つ。家族の分を用意しておくといい。

 災害時でなく平常時でも、防寒インナーが定着している。衣料品店のほかスポーツメーカーでも取り扱っていて、お気に入りがあるだろう。それはそれで十分なのだが、避難用に防災バッグに詰めるときは工夫したい。どういうことか。

「防寒インナーであっても、濡れたら意味がありません。衣類は、雨や雪で濡れないようにビニール袋などで密閉して、防災バッグなどに詰めておくのです」

 カイロなども一緒にビニール袋に入れておくといいだろう。

ポータブル電源、電気毛布、寝袋で万全

 前述の参加者は、それくらいの防寒対策で避難体験に臨んだが、それでも寒さはつらく感じられた。参加者の中には、毛布の追加を求める人が少なくなかったという。繰り返すが室内の温度が15度でこの状況だ。真冬の避難での寒さ対策は、用心に用心を重ねてこそだろう。

「万全を期すなら、ポータブル電源と電気毛布、寝袋です。ポータブル電源はアウトドアグッズとして注目のアイテムで、災害時も大活躍します。高機能のものだと1台5万円以上しますが、携帯の充電もできるし、アウトドア好きならこれを機に1台買っておくといいでしょう」

 ポータブル電源は、電池容量に幅があり、低容量は300ワット、高容量は1000ワットを超える。家族の人数にもよるが、防災目的なら700ワット以上は必要だろう。電池容量のほかにも、選び方がある。

 ポータブル電源は、発熱やファンなどにも電気が使われるため、実際に使用できるのは公称値より少ない。その使用量は50~85%程度とさまざまで、当然、使用割合が大きいほど高性能だ。

 もうひとつが、定格出力で、ポータブル電源から安全に給電できる最大出力を意味する。使用したい家電の消費電力が、その定格出力を上回っていると使えない。定格出力と家電の消費電力は要チェックだ。

■カーチャージ機能は必須

 さらに家電との接続方法やプラスアルファの機能も重要だという。

「ポータブル電源と家電の接続にはAC接続やUSB接続などの他、シガーソケットタイプのDC接続もあります。スマホの充電はUSB接続で、電気毛布はAC接続とUSB接続のどちらもある。プラスアルファの機能はさまざまですが、車がハイブリッドならカーチャージ機能は絶対にある方がいい。防水機能も災害時は役立ちます」

 電気毛布は、冬の暖房器具の中でも消費電力が少ない。ポータブル電源があれば、長時間使用できる。冬のキャンプで愛用する人は珍しくない。

「氷点下での冬のキャンプは、電気毛布と寝袋に加えて羽毛布団を重ねて万全です。冬の避難時の寒さ対策は、そこまで徹底してもしすぎることはありません。その3点セットを車中泊に使ってもいいでしょう」

 冷えは体力を奪い、免疫力を低下させる。オミクロン株が拡大している中、感染予防の点でも寒さ対策は重要だろう。

「ポータブル電源があれば、お湯を沸かしてお茶やスープを飲むこともできます。温かい食事を確保することにも力を発揮してくれるのです」

 真夏の避難は、着の身着のまま逃げても、何とかなる。しかし、冬はそうもいかない。防災バッグの中身を冬用にして玄関などに置き、イザというときに備えておこう。

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